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はじめに
整形外科,形成外科の分野におけるmicrosur—geryの対象となるのは,末梢血管,末梢神経,リンパ管が主なもので,夫々microvascular surgery,microneural surgery,microlymphatic surgeryなどと呼ばれている.そのほか,microdissectiontechniqueといつて,眼,耳鼻,脳外科などで用いられているように,微細な組織の剥離や修復に応用される技術も含まれる.脊髄のmicrosurgeryは整形外科でも盛んに行なわれるようになつたが,末梢神経のそれとはいささか趣を異にし,むしろ脳神経外科のmicrosurgeryと同じ範躊に入れられるべきものである.
さて,末梢血管の吻合にmicrosurgeryが応用されるようになつたのは,耳鼻科領域でスエーデンのNylen(1921)1),Holmgren(1922)2)によつて,はじめて顕微鏡が手術に応用されたのに遅れること40年の1960年,Jacobson & Suarez3)の発表が最初である.また,末梢神経の顕微鏡下手術は1964年頃Smith4),Kurzeら5)により行なわれたのが最初で,いずれも近年に至つて漸く一般化されてきた.リンパ管のmicrosurgeryも臨床応用に供されるようになつたのは,1962年Cockett & Goodwin6)以来のことであり,未だ普及するに至つていない.従つて,1952年はじめてZeiss社手術用顕微鏡OPMI 1型が開発され,1961年にはdiploscopeが発売されたのに加えて,米国のEthicon社から7-0〜8-0のmicrosurgery用針つき絹糸が得られるようになつたことが,この分野でのmicrosurgeryを可能にしたといえる(図1).筆者の一人(玉井)が,1964年にmicrovascularsurgeryの道に足を踏み入れた頃には,7-0絹糸が主流を占め,米国のDr. Jacobsonから直接入手した8-0monofilament nylonのサンプルが世界で最小のものであつたことは,10-0〜11-0 nylon糸をふんだんに使用できる今日から考えると夢のように思われる.その当時,microvascular surgeryといえば外径4.0mm以下のものを対象としていかように,これらの分野のmicrosurgeryがmicrodissection techniqueを主体とする耳鼻咽喉科,眼科のmicrosurgeryにかなりの遅れをとつた理由は,より高倍率で,解像力の良い顕微鏡を必要としたこと,いま一つは微小な血管や神経の吻合を行なうに適した優秀な針つき糸の開発が遅れていたことにある.
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