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この手術の意義と適応
経括約筋的直腸手術transsphincteric surgery of the rectumは,はじめ直腸癌の局所切除を行なう目的でCripps(1880),Bevan(1917)らが行なつた方法といわれるが,近年では英国のY. Masonが多くの直腸病変の局所切除に盛んに行なつて報告している.その要点は,肛門から旁尾骨部にかけて切開を加え,皮膚,肛門挙筋,内外肛門括約筋,骨盤筋膜を切離し,さらにつづいて直腸壁を大きく切開して内腔をひらき,直視下に広い手術野で直腸病変を十分に切除することである.切除後は各層を順次縫合して創を閉鎖すれば.括約筋を全部切つても癒合して,あとに著しい肛門直腸機能障害がほとんど起こらないことがわかり,本法の応用価値が大きいことが認められたわけである.
最近多くの直腸病変が発見されているが,臨床的に明らかな進行癌であるもの以外は,その治療方針をきめるのが困難なことが少なくない.とくに粘膜または粘膜下層にとどまるいわゆる早期癌(m,sm)については,癌であつても直腸切断術を必ずしも要しないことがわかつて来た現在,隆起性病変の良性,または悪性を決め,悪性であればその深達度,組織像,とくに分化の程度,脈管浸潤などを明らかにして治療方針をきめることが望まれる.この目的には一部分の生検では不十分のことが多く,腫瘤を周囲組織や直腸壁の深層とともに全切除してしらべる必要がある.この際ポリペクトミーの容易な有茎性病変や,経肛門的に簡単に切除できる肛門縁に接した小病変を除き,本手術を用いて完全に切除するとよい.m癌や良性疾患とわかり,完全に切除できたと判明したら.これで治療も完了する.sm癌であれば根治手術を加えるか,十分観察をつづけることを条件にすぐにはこれ以上切除を加えないかを,組織所見や患者の全身状態などを参考にきめることになる.とくに大型の隆起性病変,たとえば絨毛状腺腫などの摘出は本法のよい適応となる.このほか本法の原理は他の多くの直腸手術にも応用される.たとえば開腹による直腸切除後,直腸下端と口側結腸の吻合を本法により直視下に行なつたり,前立腺直腸瘻の修復に用いたりできる.なお,肛門管より口側の病変に対しては,肛門管,肛門括約筋,恥骨直腸筋は切離せずに行なう経仙骨的手術も価値が大きく,これについても簡単に紹介することにする.
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