Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
甲状腺機能亢進症hyperthyroidismは,甲状腺ホルモンの過剰により引き起こされる.頻脈,動悸,手指振戦,多汗,やせ等の症状群,あるいはその症状群をもつ患者全体を指しており,この中にはバセドウ病(グレーブス病)の他,Plummer病,異所性甲状腺刺激ホルモン産生腫瘍(胞状奇胎,悪性繊毛上皮腫),亜急性甲状腺炎の初期,Hashitoxicosis,甲状腺剤中毒症,TSH産生腫瘍(非常に稀)等が含まれる.しかしながらバセドウ病と完全に同意語として用いられることも多く,以下も最も重要なバセドウ病を中心にそのホルモン動態について述べることにする.甲状腺ホルモンにはサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類があること(図1),T3はT4に較べ速効性でT4の数倍もの生物活性を持つていることは20年以上も前から報告されていたが,T3の血中濃度はT4の1〜2%前後と非常に低く化学的測定法では測定不可能なため,T3の生理的役割については長い間明らかにされなかつた.しかし近年radioimmunoassayなどの測定法の進歩により血中濃度が比較的容易に測定されるようになり,T3の生理的意義の重要性が指摘されてきた.さらに1970年1)甲状腺の全くない患者すなわち自分では全くT3を分泌できない患者にT4だけを投与しても血液中にT3が出現することから,甲状腺以外でも肝,腎,結合組織等の末梢組織においてT4がT3へ転換(conversion)される事実が報告された(図2).また甲状腺機能正常者では全身に存在するT3のほとんど大部分はこのT4からの転換により生成されたものであることが明らかにされ,T4は単にT3を供給するためのprohormoneにすぎず末梢でT3に転換されて初めて生理的作用をあらわすのではないかという考えもある.しかし一方T4それ自体にもホルモン活性が存在するとの報告塗,あり,甲状腺ホルモンの生理的意義,作用機序を考える上で非常に興味のある問題ではあるが,現在のところはつきりした結論は出されていない2-6).
また,甲状腺ホルモンは血中で血清蛋白と結合して運搬され,実際に活性を発揮するのは結合していない遊離型(free)であるが,特にT4は結合が強く,free T3が約0.4%であるのにくらべfree T4は0.04%にすぎないなどの特徴がある.
Copyright © 1977, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.