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針刺と捻針,雀啄
前回まで,歴史,理論,実際について述べてきたので,今回はハリ麻の実技について述べる.まずハリの刺入の方法であるが,それには用手法による針刺と,筒を使用して針刺する筒針の2法がある.筒を利用してハリを刺す方法は日本で発達した方法である.これは筒にハリを入れて,上よりハリをたたいて刺すのであつて,針刺に際してそれほど熟練しなくてもハリを刺すことができる.しかも細い金あるいは銀のハリを使用できる.これに反して普通のハリは多くの場合ステンレス製である.このハリを,手でこよるように捻針しながら刺すのが一般的に行なわれている方法である.捻針して針刺する方法は練習によつて上達する必要があり,上手に針刺するためには次のような方法がある.それはチリ紙を重ねて3〜4cmの厚さにし,これに糸をかけて十分にかたくしてから上より下まで上手に捻針で達するようくり返す.上手に捻針することもハリ麻の一つだと考えられている.実施に際して上手に針刺し,しかもツボにあたるようにする.ツボはうまく達すると,釣の時に釣糸から釣竿へ魚信を感じるような"ピクッ"とする手ごたえがある.これを"ひびき"あるいは得気と呼んでいる.ツボは現在まではつきりした定義づけができないが,生理学的には電位の低いところとされている.しかしこの逆は真ではない.ハリ麻にさいして経験的に言われていることは,デタラメに針刺するよりもツボを刺す方がより効果的であるということである.またツボは絶対的なものでなく,ハリ麻の際に時間がたつにつれて場所がごくわずか変ることがあり,刺し直すことがある.用手法のみでハリ麻を行なう場合2〜3c.p.s.でハリを手でたえず捻針することが必要である.これは,このことによつて末梢よりの刺激をより強くして,中枢への刺激効果を強める作用がある.またこれに雀啄(ジャクタク)といつて,雀がエサをついばむ時のように力強くハリを上下させることを加えると,さらに刺激が強くなるのでさらに麻酔効果が上る.特にハリ1本で麻酔する場合,捻針と雀啄を加えて行なうとよりよい効果が得られる.日本より中国へ行つたハリ麻の見学者がハリ1本で麻酔して手術をしたのをみたといつている場合の殆んど多くがこの方法によつている.用手法の利点は手術の進行にあわせて緩急自在に捻針,雀啄を或いは強く或いは弱くして,手術にあわせることができる点である.欠点は,何時間も,しかし同じ人が捻針,雀啄をくり返すとくたびれるので,人をかえることに難点がある.このように肉体的に不可能であるので,多くの場合電麻機を使用する.中国製の電麻機はいくつかの種類があるが,中国ではBT 701が最もポーピユラーに使用されているという*.この電麻機を使用するにさいして,(電池による電源なので)直流で約60V位までvoltageをあげて,2〜3c.p.s.で刺激するのである.麻酔の最中で1回或いは2回位,電圧をあげることが望ましい.これまでの経過から気づかれたと思われるが,古来から行なわれているハリの違いはここにある.いままでのハリは多くの場合針刺するだけにとどまつている.新しいハリは,捻針,雀啄を加え,より強い刺激を与えることにある.また更には,このハリを電麻機につないでpuls刺激を与えるのである.この電麻機の刺激と用手法による捻針,雀啄とでは,くり返して述べるが臨床経験から,用手法の方が刺激が強いようである.自験例より注意すべきことの一つは,電麻機を使用する際に銀製のハリを使用した時に,麻酔の最中にハリが折れる事故がおきたことである.これはおそらく電流を通じることによる電気分解が生じたためと考えられる.他にも同様な経験があり,ステンレスのハリを使用することをおすすめする.また初期に日本で作られた電麻機の時には刺激によって火傷を生じたものもあり,実際の使用に際して十分に気をつけて頂きたい.
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