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癌性疼痛とハリ
いままで理論的なことを述べたが,再び自検例をあげる.ハリが麻酔に利用されてきたことはすでに述べてきたが,このことは痛みのコントロールにハリが関係していることを示している.それで,癌性疼痛にたいしてハリはどのように働くのか,癌性疼痛にハリは効かないといわれているが,乳癌の末期の患者にハリがどのように働いたかを示す.痛みをどのようなindexを用いてこれを表わすかは大きな問題であり,ここではこの問題にふれない.この症例については,客観的なデータとしてハリの施行前,中,後における鎮痛剤の使用量の増減をそのindexとした.このような癌の末期に使用した経験は7例あり,その全例に有効であつたわけでない.まず具体例を示す.
症例(図1)は末期癌の全身への転移による極めて激しい疼痛を訴えており,入院時よりpentazocineを使用した.pentazocineの投与量が増加したので入院12日目よりハリを施行して,pentazocineの投与量の低下,および減少,ないしは一定化が認められた.12月2日(入院23日目)に極めて激しい腹痛があり,pethidine hydrochlorideを1回使用した.ハリは腰痛,全身倦怠感には有効であつたが,腹痛,とくに,ascitesの増加による膨満感には有効でなかつた.ハリ開始後25日目より,癌性疼痛に効かなくなりpethidine hydrochlorideを再び使用し始め,この時より持続硬膜外麻酔を開始した.pethidine hydrochlorideとpenthazocineの使用量のハリによる減少と末期癌の激しい疼痛による癌末期の使用薬の増加に注意して頂きたい.このような癌性疼痛に使用し,有効であつた自験例を5例もつており(無効例もあつた),それらの小経験から癌による疼痛の全期間を通じて有効でないが,"初期から中期にかけて有効"であると考えている.癌による疼痛にハリ麻酔は無効であると言われているが,自験例から言えば必ずしもそうでなく,全身倦怠感のようなものを含めた痛みに有効であり,ハリと他の薬剤を併用すればかなり臨床的に有用であり,薬剤の投与量を低下し得ると考えている.このことはハリ麻が有効であるとの一つのよい根拠となるであろう.使用したツボは合谷,内関,足三里および外関,耳針を併用した.
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