保険の話
保険診療の問題点
福田 保
1
1順天堂大学病院
pp.1550-1551
発行日 1963年12月20日
Published Date 1963/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203226
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本邦の健康保険は被保険者つまり患者側からのみみると,誠にありがたい制度であつて,世界中どこの国をさがしてもおそらく見あたらないことであろう.日本の医師全体の医学的水準は別問題として,少なくも日本の最高医学は世界の最高水準に達しているし,また日夜多忙の仕事に追われつつも,医師ほど間断なく医学の勉強をつづけていく職業は,他にはまれであると思う.日進月歩の医学の歩みにおくれれば,常に進歩しつつある医療ができないので,患者から見放される恐れもあるからである.
かかる制度をつくりあげた当事者は実に見上げたものであるが,制度をつくつて魂を入れなかつたために現代日本の医療は危機に瀕しているといえよう.世界中どこにも見られない低医療費でまかなわれ,公務員のベースアップは年々止まることなく物価も毎年必らず上つていても,それに相当する部分ですら保険診療費のスライド・アップもなく,十何年前かの医療費はそのままである.医療研究者のなみなみならぬ苦労によつて,医療やその技術の向上はあつて,患者の治療成績はきわめてよくなつても,それに対する援助もなく,進歩しつつある治療器械に対する原価消却もできないような状態で医療を営なんでいる医師そのものはその上法律によつて故なくして患者の診療をこばむことができないと規定され,24時間拘束されている.
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