特集 手こずつた症例―私の経験した診断治療上の困難症(Ⅰ)
再発性膵炎(Relapsing Pancreatitis)
上村 良一
1
1広島大学医学部
pp.529-534
発行日 1962年6月20日
Published Date 1962/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407202912
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Ⅰ.緒言
急性膵臓炎が重要な急性腹部症の一つであることは多くの人が知つているが,慢性の経過をとる膵臓炎が近年多くなつたにも拘らず,それを認識している者は少く,特に内科の人達にはその存在することすら忘れている人がいるのではないかと思われることがある.
われわれ外科医は幸にも,他の疾患で開腹したさい,時折いわゆる慢性膵臓炎と考えられる病変に接する機会があり,中にはその患者の長い間の腹痛発作の原因がそのためであつたのではなかつたろうかと感ずることもあり,従つてわれわれの外科では上腹部痛を訴える患者を診る時には仮令痛みは弱くても,外来入院の別なく,また術前後を問わず,能う限り,尿中ジアスターゼの検査を行つておる.その結果その値が24以上を示した場合には膵臓炎およびそれを合併しやすい疾患を考え治療しながら,その他の検査を進めることにしている.もしも反復再発性膵臓炎のあることを意識して診療すれば,本症はわが国においても案外多い疾患ではないだろうか.ここに言う反復再発性膵臓炎とはいわゆる英米学派のRelapsing Pancreatitisのことであつて,多くの本では慢性膵臓炎と同じように定義しているが,実は慢性の経過をたどりつつしばしば発作を繰り返す形のものである,自家経験の症例を報告し,如何に本症が度々発作を起すものであるかを紹介しよう.
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