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第1章 緒言 從來バンチー氏病の獨立性に就ては尚學者の意見に一致を見ない。脾所見に就てバンチーが特有とする淋巴濾胞の纎雜化成なる所見は必しも特有なのではなくて,他疾患の場合にも見られる所であるし,假令かゝる所見が認められるにしても非常に稀なものである。アシヨツフ,ジユール等の病理學者は,バンチー氏病として記述せられている脾所見と通常肝硬變脾の所見との間には程度の差はあつても質的にバンチー氏病として特有なものはないと主張しているのは周知の處である。本症は脾の鏡檢所見の上から診斷が決定せられている疾患であるにも不拘,その所見が斷定的でない爲に,從來の學者の場合の様にこの方面のみから研究を進めていたのでは,何時迄たつても問題の解決は覺束ない。
それで吾々は數年前より全く新しい着想の下に,脾灌流實驗に着目し,先づ脾の生理を究明し,病態生理現象を明にし,就中摘出脾の灌流實驗の結果,灌流液(又勿論脾の生理的食塩水の抽出液)に催貧血性作用と同時に肝障碍作用の兩病的作用が存し,之が本症(脾性中毒症)の場合の様に白血球減少,血小板減少を件う貧血を起し,肝では諸種の機能障碍に止まらず,更に本症肝の所見に酷似した病理組織學的病變を招致し,場合に依りては本症の場合と成立ちを同じくする可成り特有の肝硬變を迄招致すると共に,脾では赤色髄に格子状殲雜の粗大,増生,時に淋巴濾胞周邉の殲維化,中心動脈の充血等本症脾の所見に似た病變を惹起するものである事を證明し,從つてかゝる病的作用を示す物質を吾々は脾臓毒と命名し,かゝる脾臓毒の實驗的生成に成功し,本症の可成り特有な臨床的症状が該脾臓毒に因するものであつて,漫然たる症候群でないと言う事を明にし得たので,かゝる脾臓毒を有する疾患を脾性中毒症なる病名の下に,類似肝脾疾患中から分離獨立せしめたのである。而して臨床的には脾を出で,血清中に出ている催貧血性物質の有無を,患者血清を家兎に注射して行う貧血實に依りて知り得る一つの新しい臨床的診斷法を見出し,又摘脾に依りて(即脾臓毒産生母地)貧血及び肝機能の囘復して疾患の治癒することを立證し,脾性中毒症提唱の詳細な論據は日本外科學會宿題報告の折之を述べ,其後臨床と研究,第25卷9號,日本醫事新報,第1273號(昭和23年5月)等の誌上にも其の概要を述べ,近くは名古屋に於ける日本血液病學會秋季集會の折特別講演として述べているから,詳しい事は之等に讓り,本稿ではかゝる症例の外科的經驗を中心として,外科醫としての卑見を述べて見たいと思う。
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