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はじめに
胃外科では従来の腹腔鏡下手術がすでに十分低侵襲であり,手術時間,出血量などの安全運用の面でもすでに確立されたものとなっている.一方,食道外科においては胸腔鏡下手術の普及,普遍化がみられるものの,長い手術時間や合併症軽減などの面でいまだ改善の余地があるといえる.よって,食道癌手術ではロボット支援手術導入による手術の低侵襲化に期待するものは大きい.例えば,胸腔鏡ではほとんど不可能と考えられる胸腔内での用手的縫合による吻合再建もかなり容易に行える.また,反回神経周囲のより精緻な操作が必要になる場面では,「机の上でプラモデルを組み立てる」ように,安定した手技が行えるロボット支援手術のメリットは大きいものと考えられる.実際このようなメリットが前立腺全摘では遺憾なく発揮され,現在ではロボット支援下腹腔鏡下前立腺全摘は急速に普及し,標準治療の地位を占める.
術野が狭く,内視鏡下での手技の制約が多い点では,前立腺手術と食道手術では理論上のメリットが類似している.しかしながら,食道領域ではいまだにロボット支援手術は普及していない.ロボット支援下前立腺全摘における有用性が,後述する別の制約を受ける胸腔鏡の手術にそのまま活用されるわけではない.また,消化器領域に関しては,わが国では自費診療でロボット手術を行わなければならず,入院診療費が高い食道癌ではロボット手術はなかなか患者に勧められるものではないため,保険収載以前の症例の集積は大変困難である.わが国でのロボット支援下食道癌手術は,2009年に藤田保健衛生大学が初めて行って以来,東京医科大学,佐賀大学,そして筆者らの東京大学のほか少数の施設のみで行われているのが現状である.これを反映して,本邦発の英文論文は筆者らのものを含めて2013年12月時点で3篇のみとエビデンスの集積が乏しい状況である.海外では欧米のみならず韓国,インドなどから多数症例の集積の報告が認められるが,食道外科のプラクティスは海外ではわが国との相違が多く,海外での報告を鵜呑みにすることはできない.
本稿では,わが国からの文献および症例数が多く代表的な海外の文献の引用を交えつつ,食道外科領域におけるロボット支援手術の現況について解説する.
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