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リンパ節郭清の立場から
わが国では専門施設を中心に,下部直腸癌をおもな対象として側方郭清が行われてきた.近年の単一施設からの報告では,側方転移陽性例の5年生存率は36~42%である.側方リンパ節転移はStage Ⅳより予後は良好で,側方郭清が予後を改善することが,大腸癌研究会の集積データから明らかにされている.また,全直腸間膜切除と比べ,Stage Ⅲ直腸癌では生存率を改善することがメタアナリシスで示されている.側方郭清では,術中出血量の増加や術後の性機能・排尿機能障害が問題となるが,自律神経温存術の普及に伴い,これらの欠点は改善されている.
一方,術前化学放射線療法は手術単独(全直腸間膜切除)に比べ,直腸癌術後の局所(骨盤内)再発率を低下させるが,側方リンパ節転移を制御できるという根拠に乏しい.また,生存率を改善しないことがメタアナリシスで明らかにされている.わが国においては,下部直腸癌に対する側方郭清は良好な生存率を担保する最も確実な局所療法と考えられる.
化学放射線療法の立場から
下部直腸癌の局所再発抑制において,欧米の標準治療である術前化学放射線治療と,側方リンパ節郭清を直接比較した大規模第Ⅲ相ランダム化比較試験は存在しない.今までのエビデンスでは,局所再発制御には術前化学放射線療法が優っている可能性が高く,腫瘍縮小によるdown stage後,臓器温存の可能性や肛門括約筋温存の可能性においても術前化学放射線療法が優勢である.
両治療法のデメリットとして性機能障害・排尿機能障害,手術操作の困難性,術後合併症の増加が挙げられるが,側方リンパ節郭清のほうが手術の侵襲が高く,これらのデメリットに関しても術前化学放射線治療のほうが軽度ではないかと推察される.しかしながら,根治手術まで時間がかかること,放射線治療における急性期・晩期障害や二次発癌の問題が術前化学放射線治療で劣る点である.今後の課題として,局所再発制御は可能となっても,最も重要な生存期間延長に寄与する報告が少ないことから,遠隔転移制御が予後を決定すると思われるため,化学療法のレジメン選択が重要と思われる.
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