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はじめに
―甲状腺濾胞癌の概念の成立と発展
濾胞癌と診断される甲状腺腫瘍の頻度はとくに西欧社会では20世紀の半ば頃から減少した.したがって,濾胞癌についての研究論文も乳頭癌に比較すると著しく少ない.濾胞癌の減少の理由は1つには甲状腺癌の分類基準が変わったことと,今1つは1920年から30年代に起こった疫学的,栄養学的変化によるものである.Lindsay1)が1960年に従来は濾胞癌に分類されていた甲状腺癌で,臨床的にも生物学的にもmultimodalityがあり,リンパ節転移が多く頸部以外に広がることの少ない腫瘍があることを発表し「follicular variant of papillary carcinoma」と名づけたが,多くの病理学者はこの意見には従わず,AFIPの小冊子2)に従った.我々が甲状腺の病理学を勉強し始めた頃にもAFIPの小冊子がBibleのようなものと考えられていた.その分類では腫瘍の50%かそれ以上が濾胞状の細胞配列を示すものを濾胞癌であると定義していた.一部の病理学者は“50%またはそれ以上”という曖昧な定義に異論を唱え,「mixed papillary-follicular carcinoma」と呼ぶことを提唱した.しかし,腫瘍の性質は乳頭癌の性質に非常に似ていた.この名称の混乱は病理学者のみならず,臨床家とくに内分泌医や外科医にまでも混乱を招き,単に高分化癌「well-differentiated thyroid carcinoma」と呼ぶものも出現した.この用語は現在でも使用されている3)が,意味は少し変わって濾胞癌と乳頭癌を比較する場合に使われることが多い.実際に純粋な濾胞癌で乳頭様の増殖の全くないものは臨床的にはunifocalで血流に乗って増殖し,リンパ節に転移することは稀であった4).この分野における細胞病理学の重要性は現在の細胞診の発達した時代には乳頭癌の細胞学的な特徴は乳頭癌と濾胞癌とを鑑別する最も確かなものとして広く認識されるに至っていることからも明らかである5,6).濾胞癌と間違えられやすい病変には「follicular variant of papillary carcinoma」のほかに「hyperplastic nodule」あるいはまたは細胞診による人工的な被膜の破損(Warrisome histologic alternations following FNA of the thyroid:WHAFFT)と髄様癌の「follicular variant」などがある.Lindsayは主として濾胞性の配列の上皮細胞で形成していても部分的に乳頭状の増殖が見られる甲状腺癌は(follicular variant of papillary carcinoma)乳頭癌に分類したが,Meisnerら2)はそれを認めなかった.しかし,Chenら7)は1977年には甲状腺内の腫瘍の細胞の配列は全部濾胞性の構造を示す6例を報告して,そのうち5例は乳頭癌に特徴的な核とpsammoma bodyをもち浸潤性に増殖し,局所リンパ節転移を有する症例を報告し,彼らはこのような稀な形態を示すものは乳頭癌に分類するほうが適切であると主張した.
しかし,follicular variant of papillary carcinomaが遠隔転移を起こしやすいかどうかは結論が得られていないようである.
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