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はじめに
ポジトロンCT(PET)が導入される以前は,てんかんの焦点は微細な細胞学的変化を有するきわめて小さな広がりのようなものと筆者は観念的にとらえていた。従って,PETによりてんかん焦点が,かなり大きな空間的広がりをもった低代謝域として観察できたとき,不思議な感動を覚えたものである。てんかんという異常な電気生理学的現象を惹起する焦点が,ブドウ糖代謝,酸素消費率,局所脳血流量などのパラメーターで示される脳代謝に関して,果たしてどのような状態にあるのかは,長い間未解決の問題であった。臨床発作のような脳機能が爆発的に充進したと思われる状態においても,かつては脳血流は低下しているのではないかと推定されていた。すなわち,てんかん発作の脳血管れん縮説である1)。Gibbs2),Penfield3)などの偉大な先人の努力により,動物実験でも,人においても発作の最中は脳血流量は著明に増大することが証明された後も,それでは,非発作時,すなわち発作間欠期の焦点の代謝はどのような状態なのか,なかなかに解決されなかった。てんかん患者の脳全体の平均血流量が低下していることは,小児てんかん例で比較的早くから示されたが4),焦点部局所の変化となると,それを解明するだけの精度を持った脳代謝測定法が存在しなかった。このような状況にあって,Xe−133による局所脳血流量測定法の開発5-9)は,てんかん研究にも大きな道を開いた。発作時,非発作時を含めていくつかの研究が報告された。しかし,得られた結果は,今から逆行性に眺めると,科学的データと言うものの根拠の脆弱性を示すかのごとく,報告者により180度異なっており,あるもの10,11)は発作間欠時には脳血流は増加していると報告し,あるもの12)は逆に低下していると報告しているし,またあるもの13)は,その時の脳波の発射状態に左右されると述べている。この混乱を解決したのがポジトロンCTである。Kuhl14,15)により初めて,てんかん焦点の脳代謝は,発作間欠時には低下し,発作時には逆に著明に充進することが明確に示されたのである。すなわち,彼の1979年14),1980年15)の二つの論文を嚆矢として,その後のPET, SPECTによる華々しいてんかん研究が開始されたのである。
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