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はじめに
今から16年ほど前,われわれは脊椎動物の心臓神経に関する1篇のささやかな論文を発表した(Hirakowand Miki,1971)。それは,故小川鼎三先生の御紹介により,学士院紀要に掲載されたものである。これを先生にお願いしたのには,それなりの理由があった。というのは,1952年,先生はクジラ類,とくにツチクジラの胎児の心臓神経に関する精細な研究を発表されているのであるが,そのなかで,動脈門から入る神経は交叉するという,誰も気がつかなかったユニークな見解を述べられている(Ogawa,1952)。このことが,協同研究者のひとり三木の脳裏に深く刻まれていたところ,たまたま1968年度解剖学実習の場において,ツチクジラの所見を髣髴とさせるような心臓神経をもった人体例に遭遇したのである。そこで,われわれは,これをあらためて系統発生的に検討してみることにした。そして,先生の見解を支持するような結果を得て,それを論文にまとめ,発表をお願いしたという次第である。われわれとしてはある程度期するところはあったものの,あまり一般に注目されるところとはならなかった。
しかしながら,脊椎動物の心臓神経の基本的な解剖学的パターンに関するかぎり,現在でも考えを変える必要はないと思っている。その後,たとえばヒトの心臓神経の肉眼解剖について詳細に吟味された総説が書かれたり(福山,1982),また,魚類の心臓および心臓神経のモノグラフ(Santer,1985)や,脊椎動物全般にわたる自律神経系の構造と機能についての広範な比較研究書(Nilsson,1983)が出版されたけれども,とくにわれわれの見解を訂正しなければならないような所見は,それらのなかに見いだせなかった。ここであらためてわれわれの考えを示し御批判を仰ぎたいと思う。そこでまずはじめに,このような研究の立場についていくらかお断わりしておくことにする。
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