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I.MSA概念の発展
MSAという言葉が現在広く用いられる意味をもって初めて使われたのはJ. G. GrahamとD. R. OppenheimerのOrthostatic hypotension and nicotine sensitivity in a case of multiple system atrophy(1969)という論文である。ここではShy-Drager症候群(SDS)の臨床症状を示した症例が対象とされており,すでに最初からMSAの概念はSDSと相伴って発展して来た。
Oppenheimerらはその中でそれまでのSDSと考えられる5症例を自己の症例(60歳の男子)の症状および所見と詳細比較し,それらの間には臨床・病理学的に多くの共通点があること,またそれらをOlivo-pontocerebellar atrophy (OPCA)やStriato-nigral degeneration(SND)と区別して独立の疾患単位と考えようとする観点に立って位置づけすることに賛成できないという立場をとった。そしてWelte (1939)がOPCAについての論文で述べた,"Es wird betont,daβ es Kombinationen zwischen allen vier Unterformen der Spino-ponto-cerebellaren Atrophien untereinandergibt. Dazu können aber noch Kombinationen mit für Atrophien ganz anderer Systeme sich hinzugesellen. Diese vielfachen Kombinationen sprechendiese die enge Verwardtschaft aller Formen und Unterformen der Systematiophien des zentralen Narensystems."という言葉を引用し,OppenheimerらもWelteらと同じ見解であると述べている。彼らの考え方の根本にあるのは神経変性疾患についての原則ともいうべきものである。すなわち臨床上①進行性,②主として中年発症,③多くは対称的に症状を示し,④多くは散発性,⑤特定の神経機能系の異常を示す。神経病理学的には,①神経細胞の脱落とグリオーシスが主病変であり,②特定の機能系の諸核に際立った病変が集中して認められるが,③症例により病変に強弱の相違があり,④また同時に障害を受けることが多い場所の組み合わせがいくつかあり,例えばOPCAはその代表的な表現である。⑤反面,あまりしばしば認められないような障害部位の組み合わせをもった症例に遭遇した場合に,これを独立した症状群として取り扱ったり,または"pallidosubthalamicovestibular atrophy"など,これまで用いられていない新しい名称を用いることは混乱を招く。⑥更に家族性の場合には同一家族内にも種々の障害部位や傷害程度の差がある。以上をふまえた上で,2つ以上の機能系諸核に病変がみられる場合にこれらをMSAと呼ぶことが最も適当と考えられるとした。Oppenheimerらがこの論文中で最も言いたかったことは,これら互に病巣箇所が重なり合いながら多様な組合せを示し,しかもその間にある種のまとまった特徴を示す疾患群をひとつひとつ独立した名称をもって取り扱うのを避けるにはどう総称したらよいかにあったものと考えられる。そのことによって単に病変部位の組み合わせにすぎない"disease entities"が多数できるのを避けようというのが当面の目的であった。
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