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本書はMayo Clinic神経病理の岡崎春雄教授が,神経病理部門に一定期間研修のために廻ってくる病理学や神経科,脳神経外科等のレジデントの研修用として,神経病理学全般にわたっての教科要目をまとめられて出版されたものである。木邦では神経病理学の系統的な講義や実習を卒後教育にこういった確立した形式で行っておられる施設は未だ極めて少ないものと思われる。専門とする疾患群の神経病理については,ある程度の知識を持っているつもりでいても,他の疾患群のそれはほとんど知っていないことが多いといっても過言ではない。そういう点からも神経病理学を研修するうえで丁度よい指針になる木である。木書は序論と各論8篇からなり,序論は,神経組織の基本的な病理組織学的検査法と,病変が起った場合に各組織のelementがどのように反応して,どう変化していくかの標準的な病理所見を簡明に概説してある。続いて各論に入り,各神経組織の病変が系統的に述べられていて,神経病理学の知識を整理更新する上には非常に役立つ。著者の岡崎教授ははじめ神経科の医師として臨床にたずさわれ,その後神経病理学を専攻された方であり,そういう意味からも臨床医家にとってなじみ易い本である。著者の所属されるMayo Clinicは,患者の数,疾患の種類の豊富さにおいて,世界的に有名な医療のメッカの一つであり,その病理部分の中の神経病理を一手にひきうけて来られた方であるだけに,著者の極めて豊富な経験にもとづく記述は極めて明快であり,要領よくまとめられている。他と混同しやすい病変については,鑑別点を箇条、書にして述べてある。例えば第1章の中のEdemaのvasogenicとcytotoxic typeを読まれるとその違いがよく理解できる。また脳血管の閉塞部位と梗塞領域の関連を,多数症例の病理学的所見から実証的に示してある点など,臨床家にとって知りたい所を的確に指摘してある点など読みごたえがある。著者によると収録されている病理写真はかなり割愛されたようであり,また本の価額の点から,写真をmonochromaticにしなければならなかったことを非常に残念がっておられる。私は著者から多数のカラー写真やスライドを見せていただく機会を得たが,各種の珍しい症例等,よくもこれだけ集められたものと,さすがMayo Clinicならではの強い感銘をうけた。それだけに教授のお気持がよくわかるのであるが,それでも収録されている多数の,多岐にわたる写真は仲々すばらしいものであり,十分読者を満足させてくれるものと思う。全体として本書は比較的standardな形式で書かれてはいるが,それでいてどこかuniqueな神経病理学の本である。
本書が出版されるにあたって神経病理学に関心をもたれる方,とくに神経系疾患の診療にたずさわる臨床医家の方々に本書を一読されることをお奨めする次第である。
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