Japanese
English
総説
向精神薬の薬効機序
On the mechanism of therapeutic actions of psychotropic drugs
諸治 隆嗣
1
Takashi Moroji
1
1東京都精神医学総合研究所精神薬神部門
1Division of Psychopharmacology, Psychiatric Research Institute of Tokyo
pp.1075-1097
発行日 1979年11月1日
Published Date 1979/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406204490
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I.はじめに
分裂病や躁うつ病などのいわゆる内因性精神病と呼ばれている精神疾患の治療に,古くからいろいろな薬物が用いられてきた。たとえば分裂病では大量のringer液やbrom剤の投与,興奮の激しい患者にはpantopon,scopolamine,hyoscineの皮下注射,不眠の患者に対しては種々の催眠薬の投与などである。しかし,これらの薬物療法はいずれも対症療法的なもので,一時的な効果が期待されたに過ぎなかつた。したがつて,精神科における本格的な,真に薬物療法と呼ぶに相応しい治療は,1952年DelayとDenikerが分裂病の治療にchlorpro—mazine (CPZ)を試み,従来の鎮静剤とは異なつて,分裂病に特異な障害に有効であることを見出し,pheno—thiazine系化合物による治療を提唱したのが始まりといえる。Delayらが試みたphenothiazine系化合物を用いた治療法は,いうまでもなくフランス外科医Laboritによつて実用化されたphenothiazine系化合物と麻酔薬の相乗効果に,体温冷却という操作を付け加えた人工冬眠hibernation artificielleの原理—自律神経・内分泌機能によつて営まれる生体反応を調節して,外科的侵襲に耐えられるようにする—に着目し,応用したものであつた。このphenothiazine系化合物による分裂病の治療は,その特異な治療効果から瞬く間に世界各国に普及し,精神疾患の治療法そのものに根本的な変革をもたらしたことは周知の通りである。
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