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脳腫瘍例に出現する無菌性髄膜炎は稀なものであり,しばしば見逃され易いものである。これは上皮腫,頭蓋咽頭腫および下垂体腺腫の梗塞などに出現することが良く知られているが,膠芽腫にも出現することがある。患者は55歳の多発性膠芽腫例で無菌性髄膜炎の出現で診断が困難であつた例である。右利きで突然わけのわからぬ事を話し始め,右足に始まるJacksonけいれんがあつたが,運動機能,反射などに左右差なく,頭蓋X線脳波,scanに異常なく,髄圧170で蛋白30mg,細胞なく,左頸動脈撮影も正常であり,1週後に症状消失し退院した。約2週後再び同様な症状があり,scanに異常なく,脳波で左側頭部にθ波を認めたが,症状はほとんど消失し,脳波異常も3日後に消失した。約1カ月後,上述の言語障害と項部強直があり,発熱,KernigおよびBrudzinki徴候陽性であつたが,他に異常なくscan正常で髄圧は285,蛋白498mg,糖51mg,2800の細胞があり,細菌なく,悪性腫瘍細胞も認められなかつた。髄液,血液,尿などの培養も陰性であつた。抗生剤に効なく,入院2週後右中枢性顔面神経麻輝,左側頭痛,右の同名半盲が出現,左頸動脈撮影を繰返した結果,左側頭葉深部にmassを認め開頭した。左全側頭葉がクリーム様の壊死物質で満たされた多発性ののう腫からなつており,前,下側頭葉切除を行つた。組織学的には典型的な多形膠芽腫であり,細菌はなく,放射線療法,および化学療法に効なく8カ月後死亡した。
前述した如く髄膜刺激症状の最も出現し易いのは上皮腫であり,ケラチン様物質による刺激,また次に多い頭蓋咽頭腫からの浄化した脂質分解産物などによる刺激でいずれもchemical meningitisといえるものである。
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