神経組織化学アトラス1〈正常編1〉
はじめに
清水 信夫
pp.313
発行日 1968年4月1日
Published Date 1968/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406202361
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神経組織学および神経病理学への組織化学的方法の導入は見方によつては新しいことではない。すなわち神経細胞のNissl染色,髄鞘のWeigert染色はそれぞれ核酸,類脂質の染色であり,これらの染色法によつて神経組織学および病理学はその大綱が形成されたといつても過言ではない。しかしこれらの時代においても純粋に組織化学的に見て記憶されるべき業績が少なからずあつた。たとえば髄鞘の組織化学に関するReich (1907)の成績,G Nadi反応による勝沼(1915)の報告,鉄反応によるSpatz (1922)の研究があげられるであろう。ことにSpatzは人の淡蒼球,黒質,赤核,小脳歯状核,線条体,ルイス氏体などの錐体外路系に強度の鉄の存在を認め,初めて組織化学的特異性と脳の特殊部の機能との密接な関連を示唆した。
しかし組織化学的方法の神経組織への本格的応用は第二次大戦後である。すなわちフォスファターゼ,その他の水解酵素の証明の発見に端を発して組織化学が勃興し,各種酵素,物質の検出法が開発されると同時に,それらの神経組織への応用がはなばなしく展開され,現在にまで及んでいる。その結果各種物質のことに中枢神経内分布に関する新データが陸続と積み重なり,神経組織化学または化学構築なる分野が確立されつつある(AdamsのNeurohistochemis—try, FriedeのTopographic Brain Chemistry参照)。これらの研究によつて中枢神経内各部は異なる代謝,または機能像を呈することが顕微鏡下に明確となり,神経機能の理解に多大の貢献がなされた。
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