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この度,医学書院より超音波医学という世界にも類例のない専門の大著が発行せられた。編集委員長は東北大学工学部教授電気通信研究所所長菊池喜充氏,同副委員長は大阪大学医学部教授金子仁郎氏である。以下電気,物理,医学の各専門家52氏が集まり分担執筆したものであつて書方は副題の示すように「基礎から臨床まで」懇切ていねいに誠に要領よく,わかりやすく記述したものであつて,われわれ超音波専門家すら一驚を喫する態の迫力ある名著である。
基礎編は,わが国における超音波工学の策一線の研究者が健筆をふるつて,1.医用超音波技術の基礎(実吉純・能本乙彦・吉岡勝哉)2.超音波の測定(井出正男・奥崎正男)3.超音波診断装置(菊池喜充・加藤金正)4.医用強力超音波装置(吉岡勝哉・井出正男)5.生体と超音波(菊池喜充・田中憲二・勝田穣・林周一)〈姓名は執筆担当者,敬称略〉の広範囲にわたつて詳細な記述を行なつている。その物理学的の基礎をなす記述の大部分は,超音波技術を専門としない医家にも容易に理解できるように記述されているが,一部は超音波の専門家も一応腰をすえて読むに値するくらいな高度の数学的記述がある。しかしこれは事柄の性質上,ほかに記述の方法がないので執筆者は医家には少し無理と考えながらもやむを得ず記述されたものと思う。私の考えでは,この基礎編に表われる複雑な数式の部分は,私の平素となえているいわゆる「数学現象」(物理現象,生命現象と対立的のもの)と見て,医家の方々はこれを鵜のみにして,大いに活用せられんことを希望するものである。われわれがテレビの原理や構造を知らなくても,安心してこれを操作すると同じように考えていただきたいものと思う。医術もやれば数学もやるなどのことはナンセンスであるからである。医家は数学者,工学者を大いに活用すればよいのである。われわれ工学者が医家を大いに活用するのと同じことである。余談ではあるが本書の編者である日本超音波医学会はまつたく工学者,医学者の協力の場であつて,会員一同見事な協力のもとにまことに楽しく,日に日にめざましい業績を挙げているのである。応用編においては,1.超音波の診断への応用(福田保・田中憲二・佐野圭司・光野孝雄・金谷春之・稲葉穣・和賀井敏夫・杉浦光雄・室井龍夫・山川邦夫・仁村泰治・金子仁郎・尾村良三・海老名敏明・直江照夫・自羽弥右ヱ円)2.超音波の治療への応用)岡益尚・有賀槐三・植木幸明・林周一)3.超音波の耳鼻咽喉科領域における応用(北村武)4.超音波の小児科領域における応用(永山徳郎)5,超音波の産婦人科領域における応用(水野重光)6.超音波の眼科領域における応用(中島章)7.超音波の泌尿器領域における応用(高橋博元)8.超音波の精神神経科領域における応用(佐々木重行・犬上慶治)9.超音波の整形外科領域における応用(東野修治)10.超音波の歯科領域における応用(沐都志夫)11.超音波の人類学領域における応用(勝木新次)12.超音波の獣医科領域における応用(関明)13.超音波を出す動物(松沢喜一郎)14.超音波の工学的応用(丹羽登・奥島基良・森栄司)15.超高周波超音波と生物学医学(菊池喜充)〔付〕超音波データ表(能本乙彦)の広範囲にわたつての詳細な記述がなされている。応用といつても医学のみにかぎらず人類学・獣医学・超音波を出す動物・工学的応用,さらに近くでは菊池喜充氏による最近の超音波の工学におけるハイライト104MCまでにおよぶハイパー音波の生物とのいろいろなからみあいまでの興味しんしんたる記述があり,読み出せば巻をおくあたわざるの強い興味を覚えるものがある。
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