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I.緒言
脛骨神経に電気刺激を与え,下腿伸筋の腓腹筋,またはヒラメ筋より誘発されるH波は,脊髄前角の運動細胞の興奮準位をうかがうことができ,したがつて種々の中枢神経系の機序解明の,有力なる手がかりとなりうる。この種の研究は1912年P. Hoffmann1)により,人体の腱反射の研究に用いられたのが始まりである。すでに1952.年にMagladeryら2)3)は,種々の脳脊髄疾患例に,このH反射を行ない,H波の態度に変化があることをみいだしている。わが国においても藤森22)23)24)25),島村26),時実27),吉井28),鈴木および本間29)30),三輪31)32)33),租父江34),堀35),陣内36)37)、村越38),ら多数のすぐれた研究がある。われわれはこれらすぐれた業績をもとにして,誘発筋電図を補助手段として用い,複雑なる機構をもつ,中枢神経系の病変部位のレベル判定に役だてようと,1959年来臨床実験を行なつてきた。すなわち最初二重刺激による画復曲線を追求したが,これは中枢神経系障害にさいして現われる脊髄反射の興奮性の変化を明白にとらえろるが,その障害レベルの判定までは困難である点をみいだした。そこでさらに,動的な閾値の変化をみうる,堀ら35)の反復誘発筋電図を用いたが,これでも判定が困難の例が多いので,反復刺激に,日常診療に用いられるJendfassik膝蓋腱反射増強法を負荷したとこち、ある種の中枢神経系疾患では,正常例および多くの障害例と異なり,かえつてH波振幅の減少を認めた。このさい障害部位を他の検査所見,手術解剖所見より検するど、間脳,中脳,橋などの脳幹部にあたり,Jendrassik膝蓋腱増強法におけるこの減少のパターンも,障害レベル診断に有用であることを認め,先に小熊39)が発表した。なお,われわれは反復刺激を与え,H波の態度を観察,記録しつつ,種々なる刺激(たとえばJendrassik膝蓋腱反射増強法など)を与え,そのさいのH波の変化を見る方法を"負荷誘発筋電図法"と称している40)。その後も症例を重ね検討しているが,臨床的に容易に応用し得る反復誘発筋電図法を主体にした。またJendrassik膝蓋腱反射増強法のほかにも,意識喪失患者のごとく協力を望み得ない例にも,行ない得る方法を検討してみた。試みに前庭神経刺激を目的に外耳孔に冷水の注入を行ない,さらに末梢作用が主であるというノルアドレナリンを静脈内投与を行ない,これらのさいのH波の状態を観察,記録した。Jendrassik膝蓋腱反射増強法,外耳孔注水,ノルアドレナリン静脈内投与などの負荷誘発筋電図を,中枢神経系病変をもつ例に行なつたところ,これらに対しいろいろと異なつた反応をするものがあることを知つた。すなわちJendrassik膝蓋腱反射増強法,および外耳孔注水により正常例と逆に減少するもの,あるいはノルアドレナリン静脈内投与で正常よりも著明な振幅の減少を見るものなど,種々あることがわかつてきつつある。よつて中枢神経系病変の部位診断には,誘発筋電図を誘導し,これに上記などの負荷を荷した場合,かなり有力な補助診断法となり得る。今後,比較的作用点のわかつた,末梢作用の少ない薬剤について検討されねばならぬものと思われる。また一方,小脳障害例にも一定の傾向のあることがわかつた。
Evoked EMG which had been initiated by Hoffmann and Magladery was applied to patients with central nervous disorders in attempting to determine the level of lesions. Also Jendrassik maneuver, caloric stimula-tion to the vestibular nerve by pouring cold water into the external auditory canal, or intravenous admini-stration of noradrenalin were added during evoked EMG recording. In patients with brain stem lesion reduction of the amplitude of H-wave was observed by applying Jendrassik maneuver and caloric stimu-lation in contrast with normal persons. It is difficult to evoke H-reflex in patients with cerebellar tumor because of its high-threshold.
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