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〔72〕 頭部外傷患者の退院後の予後調査
頭部外傷患者が,外科的治療をうけて後,症状が長年月の間にどのように変化し,現在どのような症状を残しているかということについては,ほとんど報告されていない。我々は,受傷後3年以上を経過したもの36例,3年未満のもの44例について,精神症状,神経症状を検索し,必要に応じて,脳波・気脳写・脳血管写などの追求を行なつた。その結果,多くの例に,意識混濁・健忘症候群・神経衰弱様状態・知能障害・性格障害・てんかん性発作・神経症状・自律神経症状・巣症状などを認めた。これらの症状群の中で,知能障害は,全症例の半数以上の58%に認められ,性格障害すなわち,感情の鈍麻と刺激性,欲動の低下などを主徴とする情意面の障害は,67%で最も多く認められた。頭痛,眩暈,記憶障害などの種々の心身の故障を訴える状態すなわち,神経衰弱様状態は,44%という多数に認められているが,この中で賠償と関係があると推定されたものは,わずか9%にすぎなかつた。最も重要な問題の一つである経過年数と症状の発現との関連性では,受傷直後と同様な症状が,3年以上経過した場合にも,なお持続しており,特に受傷後3年未満のものに,発現率の高いものとしては,神経衰弱様状態,抑うつ的・緊張状態であつた。年令と症状との関係では,高令者に特に高率に発現している症状には,知能障害,性格障害,多幸的・弛緩状態があり,障害のないのはわずか5%にすぎなかつた。
最後に,社会的適応性であるが,職場・学校・家庭などを訪ずれ調査した結果,障害が認められず,受傷前と変らず作業に従事しているものは,わずかに全症例の25%にすぎず,他の75%は,何らかの障害を残していることが注目をひいた。
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