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あとがき
A
pp.915
発行日 1960年10月1日
Published Date 1960/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406200996
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ローマオリンピック大会で水泳は当初期待したほどの成果を挙げずに終つた。国民の期待が大きかつただけに失望の方も又大ぎかつたに違いない。オリンピックは"勝つことよりも参加することに意義がある"と云う名句を持つてしても,かかる感情を打ち消すことは容易でない。しかし当然の結果だとはき捨てる様に云つた一水連役員の言葉は真に考え直さなければならない問題を含んでいる。つまり,日本の現状では国際級の選手を養成するback groundが全然欠けている。従つて1人の傑出した選手が現われてもそれに続く若手が仲々育たない。次の層を養成すべき中学,高校では一攫千金となる野球には本人はおろか親達も力を入れるが,一方金にならない水泳などには全然耳も傾けないと云つたドライな風潮が充満しているそうである。運動神経の発達した人材は像とんど野球その他,金になる方へとられ仲々水泳などには入つて来ない。かかる人材が入ればオリンピックでの優勝は強ち夢ではないとのことである。かかることは医学の分野にも通ずることではなかろうか。つまり臨床の基礎たるground関係には仲々人材が集まらず臨床の方に引き抜かれてしまう現状では将来全くお寒い限りである。10年先,20年先には落ち着いて基礎研究をする人がなくなるのではなかろうか,と憂慮している向ぎも可成りある。誠に大変なことである。基礎関係の研究の進歩なくしてその上に立つ臨床の進歩があり得ようか。
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