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あとがき
A
pp.907
発行日 1959年10月1日
Published Date 1959/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406200856
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彼岸の訪ずれと共に毎年猛威を振う日本脳炎もようやく終末を告げるかに思われる。今年も相変らず現代医学の進歩を尻目に恣意に幾多の尊い人命を奪つた感がある。稀な病気である為に,一般にはやや対岸の火事としてアウトサイダー的な気持を与えがちである。しかしいざ身近かに脳炎で倒れた人を見るにつけその恐ろしさに今更ながら唖然とさせられる。
昨年の患者掌1002名に較べれば今年は525名とその数に於いては確かに減少している。が,一方死亡者は昨年の288名に比して176名と率に於いては逆に昨年を凌駕している事実は軽視出来ない。稀れにしか罹らないがいざ運悪く罹つたら20〜50%は助からない。たとえ運よく生き残つたとしても脳に病変が現われ廃人同様になる恐れが多分にある。因みに"今日の治療指針"を見ると“日本脳炎による脳の病変は今日の医学では如何ともする事が出来ない。後遺症に対しては今日適確な治療方法がない”と記してある。医学の進んだ今日に於いても我々はdemonに絶えず脅かされていた太古の人々とある意味に於いては尚同じ様に絶えず死の淵に立たされている。ひとたび裁断が下されれば現代医学の進歩をもつてしても如何ともし難い“やまい”が多々残されている。特に神経病,精神病関係にはその傾向が強い。一日も早く悲惨な状態から遠のきたいものだ。
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