Japanese
English
特集 睡眠障害と体内時計
5.睡眠物質
Sleep Substances
裏出 良博
1
,
江口 直美
1
Yoshihiro Urade
1
,
Naomi Eguchi
1
1(財)大阪バイオサイエンス研究所分子行動生物学部門
1Department of Molecular Behavioral Biology, Osaka Bioscience Institute
キーワード:
prostaglandin D2
,
adenosine
,
histamine
,
orexin
Keyword:
prostaglandin D2
,
adenosine
,
histamine
,
orexin
pp.45-55
発行日 2003年1月1日
Published Date 2003/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406100428
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はじめに
睡眠物質の存在は,20世紀初頭に行われた「断眠後の犬から回収した脳脊髄液を別の犬の脳内に注入すると,その犬が眠り出す」という実験により証明された。この実験はフランスのヘンリー・ピエロン博士と日本の石森国臣博士により,ほぼ同時に全く独立に行われたものである。以来,伝統的にわが国は,断眠中に脳内に蓄積すると考えられる睡眠物質に関する研究が盛んであり,東京医科歯科大学の井上昌次郎名誉教授の研究チームと大阪バイオサイエンス研究所の早石 修名誉所長の研究チームを中心に精力的な研究が進められ,現在も世界の睡眠物質研究のリーダーとしての地位を保っている。
この数年は,特に,睡眠研究に遺伝子工学的な実験手法が導入され,従来の予想を超える速度で睡眠覚醒調節機構に関する新たな発見が続いている。本稿では,睡眠覚醒機構に関係する脳内物質の中で,脳を休めるノンレム睡眠(NREM sleep:non-rapid eye movement sleep)を選択的に誘発する睡眠物質であるプロスタグランジン(PG)D2を中心に,その睡眠誘発情報を仲介すると考えられるアデノシン,覚醒系の神経伝達物質であるヒスタミン(図1),および,ナルコレプシー(日中に過剰な眠気を訴え情動性脱力発作を伴う過眠症)の原因物質であり強力な覚醒物質であるオレキシンについて,遺伝子操作マウスを用いた睡眠障害モデルに関する最近の研究成果を紹介する。
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