Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
症 例 69歳,男性
既往歴 1995年,頸椎ヘルニアに対し前方固定術。1997年,腰椎ヘルニアに対し前方固定術。
現病歴 2005年4月21日正午過ぎ,つまずいて転倒し後頭部を打撲した。受傷直後に意識障害を認め当院に救急搬入となった。来院時,すでに意識は回復し四肢の麻痺も認めなかったが,右方視時のみに複視の訴えがあり左核間性眼球運動障害(MLF症候群)を認めた。頭部CTでは脚間槽に限局した外傷性くも膜下出血の所見を認め,頭部MRIにて中脳内側縦束が高信号を呈していた(図A,B)。保存的に加療し他覚的眼球運動は約1カ月の経過で正常となり複視の自覚症状も消失した。
コメント
MLF症候群の三徴は,(1)障害側の眼球の内転障害,(2)障害と反対側を注視させた際の対眼眼球(外転眼)に単眼性眼振,および(3)輻輳障害がみられないとされている。責任病巣は内側縦束(MLF)の障害で,多発性硬化症や脳血管障害で出現することはよく知られている。外傷性MLF症候群はMLF症候群の約3.9%と頻度が低いとの報告があり1),発生機序として外力が直接脳幹部にかかわる一次的脳損傷2)と,血管障害が関与する二次的脳損傷3)が考えられる。本症例では,一過性の意識障害のみでMLF症候群の症状も約1カ月の経過で消失したことから,前者の一次的脳損傷は考えにくいが外傷による中脳に歪力が加わり浮腫が生じた可能性は否定できない。後者の血管障害の可能性は,MLFが存在する部位は脳底動脈からの傍正中枝および長周辺枝と短周辺枝などの分水嶺であるという解剖学的特徴があるため,前後方向の外力が脳底動脈穿通枝と脳幹部との間にneurovascular frictionを引き起こし,直接血管のcompressionやkinking,spasmによる虚血状態が,外傷性MLF症候群を引き起こした原因と推察できる。臨床的に診断は容易であるが,MRI画像で外傷性MLF症候群を証明した文献はWalshらのT2強調画像の報告4)のみで,両側性の障害であり,片側性の画像の報告はなく詳細な画像報告は本例が初めてである(図C,D)。他の原因によるMLF症候群と異なり外傷性MLF症候群はほとんどの症例で予後がよく,一過性であるため注意深い画像診断が必要である。
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.