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■はじめに
精神分裂病(以下,分裂病)の病因に遺伝が重要な役割を果たしていることは,家族研究,双生児研究,養子研究などの臨床遺伝学的研究によって明らかにされている。分裂病は一般人口の約1%が罹患するのに対し,患者の第1度親族の発症率は6〜13%,二卵性双生児では17%,一卵性双生児では48%と一般人口と比較して高い7)。一方,遺伝子がほとんど同一である一卵性双生児の発病一致率が50%程度であることは,何らかの環境要因が発症に関与することも明らかである。分裂病の遺伝様式は,単一遺伝子によるメンデル遺伝では説明できず,複数の遺伝子と環境要因とが関与する「ポリジーン遺伝(polygenic)」,または「多因子遺伝(multifactorial)」であると考えられる。発症における遺伝的要因の関与も,かかわる遺伝子の種類やその影響の度合が個々の患者によって異なるものと考えられる(遺伝的異質性)。
このように分裂病は複雑な遺伝様式をとるため,遺伝子を探す作業は,メンデル遺伝に従う遺伝病のそれと比較してはるかに困難である。しかし,近年,複雑な遺伝様式をとる遺伝性疾患(例えばAlzheimer病や糖尿病)でも遺伝子座位や遺伝子が見いだされてきていることは周知のとおりである。しかし,これらの疾患と分裂病とを比べると,さらに困難な問題に直面する。すなわち,前者には明確な生物学的診断指標があり,病態生理も明らかにされているのに対し,分裂病が内因性である,つまり,分裂病という表現型に特異的な器質性変化や生物学的マーカー,発症機序が明らかにされていないことである。これは遺伝子型と表現型とをつき合わせる作業である遺伝子研究をさらに困難なものにしている。
このように分裂病の遺伝子研究はあらゆる遺伝性疾患の中でも最も難しい部類に入ると言って良いであろう。しかし,近年の分子遺伝学の技術の進歩を導入し,分裂病の遺伝子研究は精力的に行われており,最近の進歩は著しい。本稿では分子遺伝学的側面における最近の進歩について概観する。
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