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(1)歴史的概観
ブロイラーBleulerが1911年に分裂病群(the Group of Schzophrenias)に関するモノグラフを出版した時には,クレペリンKraepelinが早発性痴呆(dementia praecox)の臨床像を記述してから15年も経過していなかった。ブロイラーの見解は突然に形作られるはずもなく,また,アシャッフェンブルクAschaffenburgのハンドブックの第2巻として出版されたブロイラーのこの卓越した著書は,1日どころか1年間かけても完成されるわけでもないので,ブロイラーとクレペリンが同時に,自分たちの考えをまとめ始めていたと考えても,あながち不合理ではない。19世紀終わり近くにおける臨床的,理論的精神医学の歴史は,クレペリンとブロイラーの双方の仕事に,はっきりと反映されている。2人は1880年代になって活動を始め,ヴントWundtのライプチッヒLeipzig学派の影響を受けた。ヴントの関心は生理学的心理学者のそれであり,思考の連想という現象を重視した。
ヴントの影響を受けている間は,クレペリンは,ほとんど病的思考の形式的側面だけに関心を抱いていた。このことはクレペリンに数多くの症状を発見させたが,しかし,彼本来の関心は常に,一貫した臨床像を得ようとすることにあった。しかし,厳密に言うと,クレペリンは臨床像を明確に示そうとする場合に,臨床精神医学の研究が直接提供するものの影響をそれほど受けなかった。というのは,精神医学は疾患を取り扱っているのであるから,「明確に限定され,正確に診断が下され,正しく予後の見通しがつけられるといった,はっきりした疾患セットを持つべきである」という一般医学のパターンに精神医学も従わなくてはならないと考えていたからである。この意味では,精神医学はそれ自身の本質やそれ自身の臨床的な問題に従って発展してきたというよりも,むしろ非常に多くの様々な疾患や疾患群を発見してきた,精神医学以外の臨床医学の発展をまねることによって発展してきたと言える。このため,クレペリンは患者のパーソナリティの詳細な特徴をほぼ完全に無視するようになった。すなわち,患者の個人的な生活史や個人的な問題は,ある患者群に共通したものである限りにおいてのみ,クレペリンは関心を抱いた。ひとりの人間としての心理的な適応のあり方などというものは,クレペリンの注意からは外れていたように見える。
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