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■はじめに―研究の動機
山下68)は彼の著書「対人恐怖」(1977)の中で,次のように語っている。すなわち,「筆者は,少なくとも昭和38年以前には,赤面恐怖や視線恐怖は対人恐怖の範囲にとどまり,自己臭妄想や醜形恐怖の多くは精神分裂病に発展するものと考えていた。そのうちに経過を追っても分裂病症状を呈しない自己臭恐怖や醜形恐怖の症例に多数遭遇し,一方で赤面恐怖も甚だ深刻な病態を呈することを知って,これらの恐怖症状に共通するものを探り始めた」という。奇しくも,我々の研究もちょうど同じ頃に始められた。
検討の対象となった症例は山下が挙げているものとほとんど同じものである。そこには,自己臭・自己視線の症例を中心に,赤面恐怖・醜形恐怖・自分の飲みこむ唾にこだわりを示す症例など,実に様々なものが挙げられるが,当時の我々の教室では,これらはすべて「精神分裂病」ないし「初期分裂病」と診断されていた。したがって,我々の研究は,とりあえず,これらの症例を精神分裂病(以下,分裂病)と区別する作業から始められた。そして,1966年3月の第62回東海精神神経学会には,「自己の視線を主題とする関係妄想の一群」11)についての報告がなされ,同年4月の第63回日本精神神経学会には,「思春期に好発する一群の妄想症者にっいて」57)の発表が行われた。また,これと時を同じくして,1967年6月の第90回近畿精神神経学会には,藤縄らによる「自己臭体験の症状推移について」9)の発表が行われ,次いで同年10月に開かれた第4回日本精神病理・精神療法学会では,同じグループによる「自己臭体験の症状の構造について」10),および山下による「対人恐怖症の心理機制および治療機転」67)についての発表がされているが,対象としているところはほぼ同じものであった。
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