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序論
1.記憶概念の細分化と問題
近年の記憶理論は,認知心理学の導入により急速な展開を遂げ,1970年代以前の短期/長期記憶の単純な二分法を超え,記憶の概念は著しく拡張してきた。この二分法に対する批判から作働記憶(working memory;WM)の概念(Baddeleyら,1974)が登場し,他方,長期記憶はエピソード記憶(episodic memory;EM)と意味記憶(semantic memory;SM)に大別された(Tulving,1972)。長期記憶は,言語化が可能で,意識的想起を必要とする過程である宣言的/顕在記憶(declarative/explicit memory)と,意識的想起を必要としない過程である非宣言的記憶/潜在記憶(nondeclarative/implicit memory)に区別される48)。最近では,Squireら48)は,非宣言的記憶/潜在記憶を細分化し,各下位の記憶系の基盤にある神経基盤を想定している(図)。またTulving50)は,各記憶系が系統発生・個体発生的な階層的関係(表)にあると考え,手続き記憶(procedural memory;PrM)が発生史的に最も古い記憶であり,その後に,知覚表象系(perceptual representation system;PRS)50),SM,一次記憶,EMなどが出現してきたと想定している。さらにEMは,想起が繰り返されると,次第にSMの特徴を持つようになり(Cermak,1984),新しく形成されるSMは,EMの一部として獲得される可能性がある46)といった仮説が提唱され,SMとEMの概念の区分が単純ではないことが明らかになってきた。
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