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第3回日本神経精神医学会(The Japanese Neuropsychiatric Association)が1998年5月13,14日の両日,大阪大学医学部精神医学教室武田雅俊教授主催のもと,大阪の千里ライフサイエンスセンターで開催された。本会は,国際神経精神医学会(International Association of Neuropsychiatry)に呼応し,「脳・神経疾患における精神障害に関しての研究を推進し,我が国における神経精神医学の発展を図ること」を目的として,1996年京都大学三好功峰教授を代表理事とし,第1回研究会が横浜市立大学の小阪憲司教授,第2回研究会が千葉大学佐藤甫夫教授のもとで開催され,今回から学会に改組された。いまだ3回目にもかかわらず,会員数はすでに650名を超し,演題応募も66題に上り,会長講演「痴呆の精神症状」のほか,シンポジウム「強迫」,指定演題「神経精神医学の最近の話題」,ランチョンセミナー「精神機能の画像検査」と盛りだくさんの内容で,今回は2日間の日程を要した。質疑応答も活発になされ,大変盛況であった。武田会長,事務局長の西川隆先生,ならびに大阪大学の方々のご努力に感謝したい。
ところで,シンポジウム「強迫」に関連して,座長の中嶋照夫先生も指摘され,筆者も個人的に気になったのは,精神科領域と神経心理ないし神経内科領域での「強迫」という用語ないし概念についてのとらえ方の溝である。精神科領域で「強迫」が取り上げられる際は通常,強迫神経症ないし強迫性障害(obsessive-compulsive disorders)を対象とし,obsessiveに相当する強迫思考ないし観念と,それに伴うcompulsiveに相当する強迫行為が議論される。一方,神経心理ないし神経内科領域では,前頭葉〜側頭葉の障害あるいは前方型痴呆による常同・強迫行動や,道具の強迫的使用,強迫的音読といった症状がしばしば取り上げられるが,これらの場合には通常強迫的観念は伴わない。また,道具の強迫的使用,強迫的音読などの症状は強迫的と形容されてはいるものの,現実には外界からの刺激に容易に反応してしまう症状で,前頭葉-基底核系の均衡の障害よりも前頭葉-頭頂葉系の均衡の障害が想定され,反響的ないし自動的という修飾語のほうが適当かもしれない。前頭葉〜側頭葉の障害による常同・強迫行動も,用語の上からは固執的(compulsive)行動と呼んでおくほうが妥当と思える。
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