巻頭言
アルコール関連問題教育の真空地帯
林田 基
1,2
1国立療養所久里浜病院
2現 医療法人積愛会・横浜舞岡病院
pp.116-117
発行日 1998年2月15日
Published Date 1998/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904481
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我が国においてアルコール関連問題の教育は,小学校から大学のどのレベルをとっても十分に取り上げられてはいない。今日,どの教育機関においても教育の対象となる事柄が膨大な量に膨れ上がり,アルコール問題どころではないのかもしれない。しかし,アルコール問題は成人の間に限らず,青少年の間でも,薬物乱用の波とともに確実に深刻化している。このまま放置してよいものであろうか。危機感を禁じえない。しかるべき情報・教育機関の設立を提言したい。
確かに,我が国ほど飲酒に対して無法状態で無責任な国は恐らくあるまい。先進国では考えられないことが多々まかり通っている。この国ではアルコール製品は,酒屋からはむろんのこと,自動販売機から,コンビニエンス・ストアから,駅の売店からと,どこからでも簡単に購入できる。しかも,未成年者であろうが,その時酩酊していようが,何らの保護もないまま,極めて容易に入手できる。テレビのアルコールのコマーシャルは,法的規制のないままに,飲酒シーンを堂々と見せてくれる。主婦やOLを一般から募った一気飲みのコンテストをテレビで実演してみせて,あげくの果てに多数の女性参加者が急性アルコール中毒を患って救急車で病院に運び込まれたことすらあった。バーや飲食店内での未成年者の飲酒も容易である。政府は,その上,酒類の販売のさらなる規制緩和を検討中という。このような無法状態が青少年や依存症患者や酩酊者を含めた一般庶民に与える教育上の影響を考えると空恐ろしい。「社会は,その中で最も傷つきやすい人たちのニーズにどのように応えているかによって評価される」としたら,我が国はどのような評価を受けるだろうか。
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