古典紹介
—A. Cramer—Hallucinationen im Muskelsinn des Sprachapparates(1889)
加藤 敏
1
,
小林 聡幸
1
Satoshi KATO
1
,
Toshiyuki KOBAYASHI
1
1自治医科大学精神科
1Department of Psychiatry, Jichi Medical School
pp.93-99
発行日 1998年1月15日
Published Date 1998/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904474
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□発声器官の筋感幻覚
子供がどうやってしゃべることを覚えるのか(Preyer),例えば,発音された言葉を正しく反復する試みを何度も新たに繰り返し,ついに言葉を記憶から自由に取り出して発声できるようになることを考えてみよう。つまり,はじめは自分の四肢と同じように,発声器官をあちこち無目的に動かして遊んでいた子供が,どうやって,その不断の努力のもと次第に発声器官を意のままにするのか,すなわちいかにしゃべることを習得するのかということを考えてみよう。さらに,これらの発語運動の習得に何が寄与するのかと問うてみよう。その際,はっきりしているのは,以下の点である。すなわち人間の耳は,他人の発音した言葉を反復する際,緻密な制御を行っており,しかも,言葉を記憶から引き出した上ですぐさま発声する能力は筋感覚Muskelsinnの助けを借りてはじめて獲得される。筋感覚は,構音に必要な正確な運動表象を我々の意識にもたらし,このようにして,運動インパルスが言葉の発音のため適切に発せられ,大きな訂正なしに,ただちに言葉が発声されるのである。
小児が言語を習得する際に果たすこの筋感覚の支えは,大人が外国語を学ぶ際にも一般に認められる。誰しも自分の経験から,知らない単語を正確かつ迅速に発音することがしばしばいかに難しいか,しかも大声であれ小声であれ自分で繰り返し発音してはじめて,つまり,発声器官を活動させることによってはじめて単語が習得されるということを,自分自身の経験からよく知っているはずである(Wernicke)。
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