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精神科医療の重心が施設・入院から地域・通院に移るにつれて,どんな精神科医療機関においても,頻度の多寡はあるが,救急事例に遭遇することは日常的となっている。臨床的観点からすれば,精神科救急医療の機能は特定の救急施設に偏在するものではなく,あらゆる施設に救急機能が遍在していなければならないはずである。しかし,現実には,様々な理由から,伝統的な医療原則に則った[医療モデル]の救急医療は破綻を来すようになり,救急病床の確保を主目的とした,いくつかの自治体が公共事業として運営する,広域の救急診療圏と膨大な対象人口を抱えた,[行政モデル]の精神科救急医療システムに頼らざるをえなくなっている地域が増えている。そして,厚生省保健医療局長通知(健医発第1321号,平成7年10月27日)に基づく,休日・夜間等における精神科救急医療システム整備事業が現在各都道府県で進められており,数年後には全都道府県が[行政モデル]の精神科救急医療システムを持つようになる。しかし,これで精神科救急医療の諸問題が解決されるわけではない。
最もハードな精神科救急医療を,一般救急医療システムとの対比で第三次救急医療とすれば,精神科救急医療システムの構築順序は,一次から二次へ,要すれば三次へというのが,本来あるべき姿である。ところが,精神科救急医療システム整備は,行政優先で三次から始まって,本末転倒した形のまま現在に至っており,現在進行中のシステム整備事業も[二次+三次救急]に位置づけられている。精神科救急では,トリアージュの基準が緩ければ,医療機関にアクセスする救急事例は一次救急事例を裾野として,三次救急事例を頂点とする火山状の分布パターンを描くし,基準を厳しくすれば,社会的救急事例や三次救急事例の比率が高くなる。どのような形態をとるにせよ,[行政モデル]の精神科救急医療システムであるかぎり,この頂点に近い部分の対応に重点が置かれてしまうことは避けられない。
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