動き
「第4回多文化間精神医学ワークショップ」印象記
阿部 裕
1
1順天堂大学スポーツ健康科学部
pp.105
発行日 1997年1月15日
Published Date 1997/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904262
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第1回は神戸,第2回は横浜で開かれた多文化間精神医学ワークショップは,その後,西と東で交互に行うよう話が運び,第4回は再び横浜で開かれることになった。基本テーマは「多文化間葛藤と戦争—恒久的平和を求めて」であり,おそらく戦後の日本の精神医学会で戦争がテーマになったのは初めてであろう。まず学会会長の西園昌久教授から,多民族国家になりつつある日本の現状と平和に関しての話があり,続いて主催者側を代表して横浜市立大学の小阪憲司教授から歓迎の挨拶が述べられた。参加者は100人程度であったが,難しいテーマだけに特別講演やシンポジウムがどう展開されていくのかをみな見守っていた。
特別講演はアジアの民族間戦争を長きにわたって現地で取材し,『自動起床装置』で芥川賞を受賞した辺見庸氏が「情報化社会と人間身体—オプティマムはあるのか」について熱弁を振るった。地下鉄サリン現場に居合わせたときの状況を引き合いに出し,情報がいかに人間の論理的思考や想像力を奪い取り,的確な判断を麻痺させているかを力説した。そして情報によって撹乱される人間においての生のオプティマム(最適条件)とは何なのかを考える中で,身体さえ情報によって侵され無化されていることを指摘し,人間として生きているという事実は,多くを求めることをやめた欠如の中で本来あるべき身体的感覚を取り戻すことにあるだろうと結論づけた。話の流れはオプティマムはないとかなり悲観的だったが,最後に,ご自身の山谷体験を通して人間の可能性を身体感覚に求めたことは,精神医学における身体感覚の重要性と軌を一にしていると思われた。
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