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20世紀も余すところ少なくなった。昨年は戦後50年ということで種々の行事が行われた年でもあった。ちょうど阪神大震災という未曽有の脅威に見舞われ,人間の作り上げた科学の脆さをいやが上にも知らされた年でもあった。その上科学を使って多くの人たちを無差別に殺傷する集団,オウム真理教の出現をみた年でもあった。そこで科学技術の面より過去,特に20世紀を振り返り,その底に流れる精神を抽出し,21世紀に向けて新たな心を見いだすことができたらと思う。
今世紀は人類史上類をみないほどに科学が発達し,我々はその恩恵を受けて物質的な繁栄を手にした。18世紀半ばから19世紀初めにかけて,英国で産業革命が起こり,工場制と資本主義が確立した。19世紀は自然科学が開花し,電気学,有機化学,熱力学,医学,蒸気交通機関,電信技術などが発達し,経済力,軍事力によるヨーロッパの世界制覇を可能にした。20世紀は,ライト兄弟の飛行機に始まり,ロケット,原爆,超音速ジェット機,人工衛星,月面着陸,スペースシャトルの成功をみ,新素材ではナイロン,合成ゴム,超合金が出来,情報面ではラジオ,計算機,テレビ,トランジスタ,産業用ロボット,集積回路(IC),LSI,スーパーコンピューターなど原子力,巨大科学の時代となり,生物学ではペニシリンや抗生物質の発見,DNAの分子構造の解明に至った。このような進歩の中で,特に今世紀注目すべきことは,アポロ11号の月面着陸(1969)で,地球は1つという宇宙科学時代に入ったこと,ワトソン,クリックによってDNAの構造が判明し(1953),無生物と生物の境界がなくなり,人間を含めて生き物はすべて同じDNAから出来ているという生命科学の時代に入ったこと,そしてエレクトロニクスを使っての情報化と共に生物を情報モデルとする時代に入ったことであろう。
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