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ペンシルベニアのK. Rickelsは,H. MZalの“Panic Disorder-The Great Pretender.”の序に寄せて,アメリカでは「1970年代は感情障害の時代であったが,1980年代は不安障害の時代である」と述べている。アメリカ精神医学会が1980年に発表したDSM-IIIで,恐怖性障害,不安状態および心的外傷後ストレス障害が“不安障害”としてまとめられた。周知のごとくDSM-IIIは“神経症”という用語を採用しなかった。力動的・精神分析的な視点に代わり,記述的・実証的・身体的観点から患者を評価する方針が採用された。DSM-IIIのこの基本方針は,不安障害の中でも特に空間恐怖やパニック障害(PD)の病態についての医学(medical)モデルに基づいた研究の飛躍的な発展をもたらした。その結果,PDの治療はめざましい進歩を遂げ,病的不安には医学的な治療が必要であり,しかも有用なことが実証された。
日本での“不安障害”の現状はというと,1993年の第89回日本精神神経学会総会のシンポジウムで,「パニックディスオーダーの病態と治療-生物学的視点から心理・社会学的視点まで」としてPDが取り上げられた。その際,西園昌久先生は「PDという新しい概念が(日本に)入ってきて,これをどのように理解し,位置づけしようかというので,四苦八苦している段階だろう」とコメントされ,司会の岩崎徹也先生は「PDという概念は主に諸外国における研究によって発展してきたのであるが,それを現在の口本の中で再検討しようという動きの中でシンポジウムが組まれた」と述べられている。シンポジウムのテーマにパニックディスオーダーという言葉を日本語に訳することなくそのまま用いられたことは,この概念がまだ日本の精神医学界にとけ込んでいないことを象徴するものであろう。PDを代表とする“不安障害”は日本ではまだ十分な市民権を得ているとはいいがたい。
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