巻頭言
脳科学の進展と精神医学
小山 司
1
1北海道大学医学部精神医学教室
pp.1124-1125
発行日 1994年11月15日
Published Date 1994/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903760
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近年の脳科学の進展には目を見はるものがある。「脳の世紀」あるいは「脳の10年」などの標語にもその意図が現れているように,「脳」の構造と機能に関する研究が国際的レベルで急速に推進されつつある。筆者は,今年,2つの国際的行事に参加する機会を得て,こうした動向を鮮明に肌で感じとることができた。
1つは,1994年4月27日,天皇皇后両陛下ご列席のもとに東京・国立劇場で挙行された日本国際賞(ジャパン・プライズ)授賞式への参加である。1994年度の受賞者は,航空宇宙分野からピカリング(アメリカ合衆国),心理学・精神医学分野からカールソン(スウェーデン王国)の両博士であった。第10回を記念する今年度の日本国際賞の受賞対象として宇宙と心理学・精神医学の両分野が選択されたことには,主催財団のそれなりの構想があったことは想像に難くない。なぜなら,「心」の現象が成立する臓器である「脳」は1つの小宇宙にたとえられるように,両分野ともいまだに神秘のベールに包まれたままの大きな謎であり,現代科学の最も重要な研究テーマだからである。受賞者のひとりであるカールソン博者は,周知のように,神経伝達物質としてのドーパミンの作用の発見と,精神・運動機能とその障害における役割の解明において多大な業績をあげた神経精神薬理学者である。なかでも精神分裂病のドーパミン仮説を基礎づけた先駆的仕事が有名であり,それだけに全く当を得た選考結果であったといえる。精神分裂病の病因の理解と治療の発展に大きく貢献した同博士の業績を心から称えるとともに,今回の日本国際賞がこれからの脳科学の発展に1つの大きな推進力となることを確信したしだいである。
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