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19世紀ヨーロッパ医学の進展の歴史については,皆さんは幾度も話をお聞きになったことがおありでしょう。さらに,このヨーロッパにおける臨床医学が,台頭してきた自然科学を範例としてこれと結びつくことによって進歩を期待されていたこと,そしてひとたび生じたこの連合が,19世紀の終わりには自然科学的医学へと結実し,20世紀の今日,全世界を席巻し始めた様についても,繰り返し耳にしていることでしょう。医学ならびにその各専門領域,そこには精神医学も含まれますが,それらがこのような形で進歩しているという考えは,歴史記述の基本であって,20世紀前半になってもほとんど疑う余地のないものでした。20世紀も終わりに近づくと,純粋に自然科学的な基盤の上に組み立てられた医学というものへの懐疑も生じましたが,それでも世界中の医学史家の多くは,とりわけ彼ら自身が医師である場合,この進歩という思想が歴史記述一般の唯一妥当な基本であることを今後も確信し続けることでしょう。
こうした考えに歴史家達がうんざりしなかったということに,私はしばしば驚きを禁じえませんでした。なぜならこの考えは,いつも決まりきった結論,すなわち私達は先人達よりもずっと良い状況にあるのだということを唱えるだけで,歴史の記述にもっと科学的な意味づけを盛り込むことに目をつぶっているからです。他方,別の歴史家達は,まさに精神医学史において逆の道をたどっています。彼らは科学化ということを,とりわけ精神医学のそれを,言葉の貧困化ととらえ,医師患者関係がうまくいかないことを科学の責任とみなしています。彼らは次のごとき時代に憧れます。つまり精神科医達が哲学に沈潜し,自ら物した大著の中で,神や人間やその世界と対峙していた時代に憧れているのです。
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