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症例は89歳の男性で精神分裂病。1954年から精神病院への入退院を7回繰り返した。1988年6月にK病院へ5回目(計8回目)の入院となり,bromperidol 12mg/日などの投与により比較的安定した状態が続いていた。1992年11月下旬,歩行失調による転倒が繰り返されたため,bromperidolを3mg/日へ減量。転倒は消失したものの,徐々に心気的訴えが多くなったため,1993年1月21日に6mg/日へ増量した。併用薬はclonazepam 3mg/日,flurazepam 20mg/日であり,これらの量は以後変化させていない。また,この時のCPKは152U/l(NL:50〜230U/l)であった。しかし,執拗な訴えが持続するため,25日にcarbamazepine(CBZ)を200mg/日就床前に追加した。その結果,起立できないほどの過鎮静を生じたため,29日に半減(30日の濃度は3.7μg/dl),2月1日夜には中止した。ところが,1月31日より意識障害,発熱(最高39℃,おおむね37℃台),筋強剛,血圧上昇,呼吸促迫,尿閉,浮腫,CPK上昇(2月1日1,488,3日3,215U/l)を呈した。4日夜には肺炎を生じたため,翌日から電解質輸液と共に抗生剤投与を開始し,bromperidolは中止した。その後,全身状態は改善し始め,CPKも8日には698,9日には479(MM type 94%),22日には224U/lと下降した。
本症例の呈した状態像は悪性症候群(SM)と診断4)される。CBZが追加される2カ月前まで,bromperidolが12mg/日投与されていたがSMは生じなかった。したがって,SMがbromperidol 6mg/日単独の作用により生じたとは考えにくい。他方,CBZの薬理作用1)やCBZによる過鎮静が,bromperidolの薬理作用とあいまって悪性症候群発症を促進した可能性がある。Goldwasserら2)もCBZを投与後にSMが再発した症例を報告しており,dopamine D2 receptor遮断作用をほとんど有さないCBZとSMの関連が注目される。最近,今泉らは強力なD2 blockerの1つであるtiaprideを追加することでSMを発症した85歳男性例を報告した3)が,高齢者においてはD22 blocker以外の向精神薬の追加もSMの発症に関与する可能性があることを銘記すべきである。
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