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■はじめに
Jean-Martin Charcot(1825〜1893)は,19世紀末の神経学と力動精神医学に巨大な影響を及ぼした。近代神経学と力動精神医学とが分かれていった三叉路に,Charcotの神経病学が位置するという評価が現れるまでに長い時間が必要であった。Ellenberger5)やFoucault6)あたりに端を発したこの再評価の動きは,特にこの数年間にCharcotrevivalともいえる様相を呈するほどに至っている。しかも,この動向は,神経学31)や精神分析3,29)やヒステリー研究20,35)の領域にとどまらず,政治社会史12,15),美術史4,33)などの領域にまたがり,とりわけ英語圏の歴史家が,19世紀中盤から第三共和政のCharcotの時代を中心とするフランスの神経病学,精神医学に焦点を当てて多くの研究成果を生み出していることが最近の特徴としてあげられる14,19,37)。さらに,これらに加えて,詳細な解説の付いた火曜講義の部分英訳10),臨床講義英語版の復刻が相次ぎ2),またCharcotからFreudにあてられた手紙が発掘され8),Charcotに関連した展覧会も開催されて,詳細なカタログが発行されている1,28,32)。
日本においては,もちろん神経学領域から取り上げられたものが中心であるが16,18),Charcotの提示した概念や事例は,精神医学の文脈から読み直してもきわめて興味深いものである。今世紀初頭,その火曜講義が日本の医学雑誌に数年間にわたり翻訳され,それが明治の終わりに3巻本になって出版されているが,小論では,少なからぬ精神医学的含意を持つCharcotの臨床講義に焦点を当て,日本における受容を,火曜講義日本語版の出版を中心に概観したい。
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