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第5回日本精神保健会議が2月9日に今年も有楽町朝日ホールで開催された。この会議は日本精神衛生会・日本精神衛生連盟が各種機関や団体の後援や協賛などを得て,毎年春先に開催されるものである。精神保健関係者から一般の方までが広く一堂に会し,今日的問題を取り上げ,宣言や提言としてまとめ,日本の精神医療や保健,福祉に関する展望を開こうとすることを本旨としている。今回は杏林大学武正健一氏を中心として会議の準備が進められ,「高齢化社会における心の健康と福祉」のテーマの下に,慶応大学浅井昌弘氏の総合司会により開催された。
最初に日本精神衛生会島薗安雄理事長より「高齢化社会における精神保健と老人福祉についての現状と問題」が開会の言葉として述べられ,厚生省精神保健課長廣瀬省氏より厚生大臣の挨拶が披露された。会議は武正,徳田良仁両氏の司会で始められ,国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健部長大塚俊男氏より,「老人精神保健・福祉の現状と今後のあり方」と題する全体的な問題が次のように報告された。高齢化社会を迎え,わが国では老人精神障害の患者数が著しく増加してきている。昨年9月現在65歳以上の老人は1,488万人,日本の総人口の12%を占め,既に1割を越えるに至っている。現在の精神病院入院患者数約35万人の中で,65歳以上の老人は7万7千人,22%で,そのうち神経症,うつ病者などが約6,000人,分裂病者は入院患者の約30%,2万3千人,痴呆症は3万3千人を数える。一方痴呆症の老人は老人人口の約6%で,昭和60年当時で,在宅だけで60万人,現在では在宅および施設・病院収容の老人を合わせて90から100万人と推定されている。痴呆症の処遇は治療より在宅ケアが中心となっている。これをサポートする機関として,厚生省による診断と救急医療に対応する老人性精神疾患センター(各県に1つ)や各地区の保健所による相談,福祉によるデイ・サービス,ホームヘルパーの派遣,老人ホームへのショート・ステイなどがある。しかしこれらは人的にも,資金的にも,施設数から言っても,北欧などに比べ,極めて不十分である。現状では在宅介護は限界ないし破綻を迎えており,これを支える新しい地域サービスの拡充と,在宅ケアが困難となった患者に対しての施設ケアのあり方が今後の重要課題である。次に青梅慶友病院院長大塚宣夫氏より「老人病院からみた痴呆症への対応」が報告された。氏の病院では836床中現在痴呆症患者が5割以上を占め,その多くが中等度以上の痴呆で,痴呆患者の比率は年ごとに増加傾向にある。この増加の原因として,①核家族化による家庭内介護能力の低下,②長寿化に伴う患者配偶者の高年齢化,③女性の社会進出,④介護義務感の低下,施設収容への抵抗感の稀薄化をあげている。また入院後数週間は環境変化による症状の一時的悪化が起こりやすく,この点からショート・ステイの問題を指摘している。次いで「呆け老人をかかえる家族の会」事務局長で老年内科医でもある三宅貴夫氏より「介護家族の心身の健康」についての報告がなされた。この家族の会は会員5,000人で各地に支部を設けており,家族,医療従事者,ボランティアらが会員となっている。介護者の家族の心身の疲労,うつ状態や悩みの実情が紹介された。患者の送り迎え自体が家族にとっては極めて困難なため,デイ・サービスを施設で受けることができず,またこれに必要な医師の診断書すら入手困難であることが指摘された。日本老年社会科学会評議員吉沢勲氏は「積極老人宣言十ケ条」について述べ,「老後は余生ではなく,本生である」,「個人としての役割を持つ」などの氏の持論がユーモアをまじえて披露された。
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