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今年も平成2年3月24日に「精神障害者を支える医療と福祉—その現状と課題—」をテーマに第4回日本精神保健会議が都立松沢病院の精神科部長小林暉佳氏の総合司会により有楽町朝日ホールで行われた。最初に日本精神衛生会理事長島薗安雄氏から「目前の21世紀には心の健康が最も大きな課題であり,心の健康を害した人への医療と福祉や人権が保障されねばならない」との開会の言葉が述べられ,続いて厚生省精神保健課長篠崎秀夫氏の挨拶の後,直ちに会議は始まった。司会は東京武蔵野病院の蜂矢英彦氏と東京コロニーの調一興氏である。まず蜂矢氏は社会で生活する精神障害者が多くなっているのに,「福祉」に対する予算面での措置が不十分で,しかもリハビリテーションの保険点数も低すぎることを指摘し,調氏は通院者が70万人にもなるが,反面,福祉サービスが貧困であると疑問を投げかける。なぜ,精神病院のベッド数や入院患者数ばかりが増え続けるのか,福祉の立ち遅れは,精神遅滞や身体障害者と比べ,ハード面ばかりでなく,運営費の点でもみられ,これの解消のために精神遅滞,身体障害者の福祉と精神障害者のそれとを包括する「「障害者福祉法」の制定を要求していくべきだ,と同氏は問題提起した。
神奈川県大和市の安斉三郎氏は多年の神経科診療所の経験を拠りどころに,初診時からリハビリテーションへの指向性をもち,地域で生活する患者はもちろん家族・近隣の人達に対しても,相談にのることが外来診療の基本姿勢であるが,高齢化する慢性通院者には現在の医療だけでは十分な対応ができないと語った。篠田峯子氏(国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院)はOTの立場から,障害者としてではなく障害を持った個人としてどのように生活していけるか,「働く」ことの意味について触れ,和歌山市の伊藤静美氏(麦の郷)は10年前に廃品回収業の現場で目のつりあがった手の震える人に出会い,「こんなんでえんやろか」,「なんとかせにゃあかん」といった衝撃が,障害者の自立への援助活動の原点になったと述べ,最後に大宮市の谷中輝雄氏(やどかりの里)がこれまでの自分の精神障害者への福祉活動を振り返りながら,「春はまだ来ないけれど…」,「二度と(病院に)戻るのやめような」を合言葉にやってきて,精神保健法の施行で「長い冬の時代」も終わりかと思ってみたが,まだまだ一握りの人達に頼っているのが障害者の福祉の現状であると結んだ。
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