巻頭言
児童精神医学と成人精神医学の連携
栗田 広
1
1東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野
pp.6-7
発行日 2001年1月15日
Published Date 2001/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902349
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当たり前のことであるが子どもは成長する。児童精神医学とくに発達障害の精神医学を志して,すでに四半世紀が過ぎた。最近は,駆け出しの頃に出会った自閉的な幼児たちが青年となり,作業所での適応上の問題などをきっかけに,久しぶりに母親と相談のために受診することが少なくない。そのような人たちの呈する問題の根底には,注意深く観察すると,成人精神科臨床の場でみられる精神障害の併発が認められることがまれではない。
精神医学の臨床では,患者の言語化された体験から,症状を把握し,診断を行い,治療を進めていくことが,基本的な方法である。ところが筆者が対象としている青年たちは,自己の体験を適切に表現するまでの話し言葉を有しない人たちがほとんどである。また彼らは,話し言葉だけでなく,言葉を補う非言語的表現,すなわち,ジェスチャーや表情や身振りなどでの表現もうまくできないので,彼らの体験を他人が把握するにはかなりの困難がある。しかし恐らくは,障害のない人に比べてその様相は不明瞭とはいえ,脳機能障害の存在は明らかであり,さまざまなストレスをより以上に受けやすく,かつそれが適切に解消されがたい状態にある人たちであり,一般の人よりも,精神障害を生じる可能性ははるかに高いはずである。にもかかわらず,多くの専門家にそれを把握するスキルが十分でないために,適切な対応がなされないままでおかれていることが非常に多いように思う。そのスキルとは通常のその人の行動レベルを把握した上で,それが現在どうなっているかをみるという,適切な行動レベルの評価を行えることがその主要な部分を占める。
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