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グループホームの実態
ここはデトロイト市の北東地区で,2つの郊外の市に囲まれた角に位置している。市役所のあるデトロイト河の川沿いが,市の行政—商業の中心部であり,そこから車で北東に斜めに走行して約20分で着く。人口百万の大都市の居住地区である。この住宅地区は,往復1車線ずつの道路の両側に煉瓦造りの住宅が並んでできている。この住宅街道路が,6車線の幹線道路と出合うところに,黄色に塗られた平屋がある。この建物は,南に酒類食品店が軒を接し,北に道路を隔ててビデオ小売店があり,入り口は幹線道路に向いていて,門も,垣根も,庭もない。そして裏側は通行自由の横道で,いわば商家のように剥き出しの家構えである。この建物に10人以上の精神医療手続きを経た成人男子が,世話係りの人々とともに共同生活を営んでいる。どう見ても3DKの広さである。これが,法的にグループホームと呼ばれる施設である。しかし,この施設には住居者が目を休める緑の芝生も,憩いのための庭も,戸外での作業の場所もない。厳重な管理のため,建物の内部での生活様式は知りようがない。休日や週末の昼間に,2,3人の住居者たちが,玄関脇のベンチに腰掛けて目の前の幹線道路を走る車の流れを眺めている。この施設の住民のうち10人ほどが,早朝から日暮れまで,バンに乗り合いで働きに行く。彼らにとっては,この施設は,いわば寝床にすぎない。そして,この施設は,煉瓦造りの中流階級住宅街の入り口に陣どり,裏をわずか4区画行くと高級住宅地である。こうした環境に位置する施設であるが,この10年間,かっぱらいなどの些細な事件があったが,背後の住宅地住民を困らせたり,煩わすような事件は生じていない。
ともかく住宅街で成り立ってきたグループホームの実態を,十余年間の実績があるにしても,成功と賞讃するわけにはゆかない。悪く言えば戦時中の戦犯強制収容所の趣きがある。食事と寝床を与えて薬で統御して作業をさせる。地域社会にありながら,地域の人々との交流は,全くといえるほどない。なぜなら,この住宅街の催しには参加しない,近隣への奉仕活動は皆無であり,隣近所との立ち話すらしない。この1軒はまさに孤立している。これが結果だとすると,脱施設(de-hospitalization)の意味合いが存在しない注)。だから地域への還元という大義名分が,これらグループホームには成り立っていない。
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