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はじめに
アルコール依存症の発症には環境因子,遺伝因子,心理因子などがかかわる。そのためにアルコール依存症はこの病因異質性が発症のメカニズム解明をいっそう困難なものにしている。各因子に関してアルコール依存症に特徴的なものを見い出そうとする努力が続けられているが,本稿では,分子生物学的な研究からアルコール依存症の発病規定因子を整理し,依存成立にどのようにかかわるのかという問題について言及する。ところで,アルコール依存症の臨床的特徴は,何であろうか? 次の2つにまとめられるであろう。すなわち,(1)アルコールを調節して飲めなくなった状態(コントロール障害),(2)アルコールが切れると離脱症状(禁断症状)が出る,ということであろう。こうしたことが,どのようにして形成されるのかが解明されれば,治療の助けとなるであろう。
ところで,アルコールを飲む人のすべてがアルコール依存症にならないのはどうしてか?という素朴な疑問がある。これはアルコール依存症に陥りやすい形質,あるいは逆説的ではあるが,アルコール依存に陥りにくい形質は何かという疑問に置き換えられる。
まず,第1にアルコールを飲まなければ,アルコール依存症にはならない。そこで,アルコールを飲む能力(?)が問題になる。つまり,アルコールの代謝能力である。
次に問題になるのが,アルコールに対する依存性である。これにはいくつかの要因が考えられる。1つは,病前性格である。飲酒行動にかかわるであろう衝動性や強迫性,新奇希求性といった気質にかかわる問題である。もう1つは,飲酒を繰り返すことにより形成されてくる精神依存や身体依存の問題である。依存の成立のしやすさに個人差があるのかという問題である。
アルコールの問題は多臓器に渡っているが,この問題を解くカギとして肝臓と脳に注目するのがよいと思われる。すなわち,アルコールを処理する能力,アルコールを欲しがる,あるいは頼りたがる気質,性格,アルコールによって生じる薬理作用の出やすさ,について検討を進めていくことが,アルコール依存成立の機構解明に結びつくと考えられる。
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