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悪性腫瘍患者は,その診断や治療の経過で,種々の精神的苦痛を経験することはすでに知られている。悪性腫瘍あるいはがんの告知,化学療法や放射線療法などの侵襲性の強い治療,社会的な活動の制約など患者は多くのストレッサーに曝され,不安,恐怖,否認,抑うつ,怒り,絶望など種々の精神症状を呈する16)。そしてこれらの症状が強まり,日常生活にも支障を来すと,適応障害,不安障害,うつ病などと診断されるに至る。例えば,Derogatisら2)は,がん患者の47%が,DSM-III-Rの診断基準に対応する精神障害を呈していることを見いだした。そして,これらの精神障害を呈したがん患者の68%が適応障害であった。また,de Walden-Galuszko3)は,末期がん患者において60%の患者に精神障害を見いだし,18%が適応障害,19%が器質性精神障害であったと報告している。このように,がん患者においては精神障害の中でも適応障害を罹患する頻度が高く,精神科医ががん患者の適応障害に適切に対処し,その発症を予防することは重要である。一方,日本ではがんの告知率はまだまだ低く7),がんであることを知っている患者は20.2%,それとなく知っているだろうと思われるものが43.8%などで,がんの診断と病状についての必要な情報が患者に知らされていない場合が多い。しかし,悪性腫瘍の診断や病状についての必要な情報が知らされていない患者も,がん治療の過程で種々のストレスに曝される。その結果,このような患者もまた,告知を受けたがん患者と同様に適応障害を来すことが予想される。しかし,どのようなストレッサーが契機となり適応障害を来すのか,また告知を受けた患者とそうでない患者の間で,適応障害の発症や病状,経過にどのような違いがあるのかについてはまだ十分には知られていない。
そこで我々は,京都府立医科大学附属病院に入院中で精神神経科に紹介のあった悪性腫瘍患者のうち,ICD-10診断基準13)を用いて適応障害と診断された症例を調査し,発症の契機や経過などを中心に適応障害の特徴をとらえるとともに,悪性腫瘍についての告知の程度がこれらの臨床的特徴に及ぼす影響についても明らかにすることを試みた。
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