特集 超高齢期の精神疾患
特集にあたって
新井 哲明
1
1筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学
pp.3
発行日 2022年1月15日
Published Date 2022/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405206531
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高齢者人口が世界的に急激に増加している中で,本邦の高齢化率は2020年時点で世界で最も高く,今後さらに上昇を続けると推計されている。そのような状況を受け,老年精神医学の重要性が増し,高齢者の精神疾患に関する研究が進み,若年期から成年期の精神疾患との違いに関する知見が集積し,日々の診療に生かされている。しかしながら,平均寿命の延伸に伴って増加している80歳台後半以降の超高齢期の精神疾患に関する知見は十分とは言えず,その診断,治療,ケアなどについて迷うことが多く,たとえば薬物療法に関して,効果が出にくい,副作用が出やすい,アドヒアランスが悪い,などの問題がより顕著となる。これらの背景に,超高齢者の心理社会的および生物学的な特徴が関与していると思われ,それらについての知見が集積しつつある。米国の研究では,超高齢者の心理社会的特徴として,女性が多い,貧困の割合が高い,教育年数が少ない,寂しさ(loneliness)をより感じている,年齢を重ねることに否定的な認識を有する,などの傾向があることが報告されている。超高齢者の脳病理については,アミロイドβ蛋白集積は減少し,血管性変化,タウ病理,TDP-43病理が増加することや混合病理を呈する例が最も多くなる傾向が明らかになっている。以上から,超高齢期の精神科診療においては,生物学的にも心理社会的にも,一般的な高齢者とは異なった特徴を有する可能性を念頭に置いた対応が必要になると思われるが,それらに関する知見は未だ十分とは言えない。
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