特集 周産期メンタルヘルスの今
特集にあたって
尾崎 紀夫
1
1名古屋大学医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野
pp.1179
発行日 2020年9月15日
Published Date 2020/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405206173
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新たな生命を授かる妊娠・出産は,妊産婦やその家族にとってきわめて喜ばしい事柄である一方,周産期は精神疾患の発症や再発が生じやすく,さらに欧米では妊産婦の自死が重大な問題として取り上げられてきた。2017年わが国でも,自死を遂げた妊産婦は東京23区で2005〜14年の10年間に計63人(妊娠中20人,産後43人)に上り,周産期死因の約7割を自死が占めており,10万人妊産婦あたり8.5人と諸外国と比してきわめて高いことが報告された。本報によると,自死を遂げた妊産婦の約半数は何らかの精神疾患として加療を受けており,周産期における精神疾患の再発・悪化が自死のきっかけとなった可能性が考えられる。また未治療群の約半数は育児に関する悩みを周囲が確認して,受診を勧めていたが,本人が精神科診療を拒否して自死に到っていた。
妊産婦の主要死因は精神障害を背景とする自死であること,加えて児の養育環境への影響も鑑みると,妊産婦の精神障害対策は喫緊の課題である。このような背景のもと,2017年に改訂された「自殺総合対策大綱」に妊産婦への支援の重要性が明記され,同年から産後うつ病健診事業が開始された。2018年発表された「成育基本法」で妊産婦の心身の健康を確保することの重要性が盛り込まれ,第7次地域医療計画には,「精神疾患を合併した妊産婦への対応ができる総合周産期母子医療センター」の整備が明記され,同年の診療報酬改定でも精神疾患併存の妊産婦にかかわる連携指導料や妊娠・分娩管理加算が新設された。
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