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はじめに
筆者は2018年9月8日から9月19日までデンマークを訪問し,現地の精神科医療施設を視察した。これは同年3月16日に,筆者の勤務する国立病院機構下総精神医療センターをデンマーク国営テレビ局が取材に訪れ,その際に知遇を得た精神科医師のP. Madsen氏とジャーナリストのM. Krøgholt氏から招待され,自費で訪問したものである。現地では精神科病院とアルコール・薬物乱用専門クリニック,回復が困難な薬物依存症患者に医療スタッフの観察下で違法薬物を摂取させる施設(drug consumption room,以下DCR)を視察させていただいた。また訪問前にデンマーク大使館にてJ. S. Barron-Mikkelsen氏から現代デンマーク社会の実情について講義をしていただき,コペンハーゲン市内にあるクリニックを紹介していただいた。ここで謝意を表したい。
筆者は2017年にイタリアの精神科医療施設を視察しており,内容は精神神経学雑誌第120巻第8号に報告した1)。イタリアでは,極端に人権に配慮した精神科医療の開放政策を実施した結果,多くの精神科患者が治療から脱落し,違法薬物の乱用に陥っている状況が見受けられた。日本の精神科医療は,海外先進国と比較して患者の人権への配慮が乏しいことを批判されているが,実際はどうであろうか。海外の精神科医療について法律,制度を報告したもの,回復施設を見学したものは多々あるが,実際に精神科臨床医が現地を視察して,治療内容を報告したものはほとんどみられない。筆者が日々の臨床を通じて実感していることは,隔離や拘束なしで精神科急性期治療が行うことは相当困難であるし,重度難治性の患者の入院期間を短くもできず,また無理に退院させて良い結果が出るとも思えないということである。デンマークは他の北欧諸国とともに,充実した福祉制度を備えていると言われているが,実際に精神科患者が置かれている境遇はわが国と比較して恵まれたものなのであろうか。臨床医の視点で視察をし,この点について報告することは意義があると考えた。
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