巻頭言
高齢者の自動車運転免許の返納をめぐって
繁田 雅弘
1
1東京慈恵会医科大学精神医学講座
pp.898-899
発行日 2017年10月15日
Published Date 2017/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205462
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平成29(2017)年3月12日,改正道路交通法の施行後,認知症の診断のために多くの高齢ドライバーが医療機関に殺到するのではないかと懸念されたが,現時点(平成29年9月)までの受診者は拍子抜けするほど少ない。多くの高齢ドライバーが自ら判断して免許を返納しているものと思われる。
運転を止めさせることは生活手段を奪うことだ,あるいは生きがいを奪うことだと言った人がいる。診断して免許を取り上げることで,医師・患者関係が壊れるのではないかと心配する声もあった。しかし結果的に認知症疾患であるにもかかわらず運転の継続はやむを得ないと考えた医師はほとんどいなかったのではないか。移動手段や生きがいのために人を傷つけるリスクが許容されることはないからである。しかし鉄道どころか路線バスもなくタクシー利用も難しい都市規模の小さい地域では黙認されているかもしれない。やむを得ないことであろうか。せめて,認知症疑いの高齢者が頻繁に運転するルートや時間帯を地域住民が情報共有するなど,危険を回避する取り組みはしておいたほうがよいと思われる。そのプロセスで,やはり危険があるのだから運転は止めさせて乗り合いタクシーやコミュニティーバス,食料品の巡回販売など何らかの支援を考えることになれば,それに越したことはない。家族を失うようなことがあれば如何なる理由があっても許す気持ちになれないのは筆者だけではないであろう。また認知症高齢者を犯罪者にしないという姿勢も医師の善管注意義務に添うものでもある。
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